それだけでよかった-1
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見上げれば、青いカーテンがヒラヒラ揺れている。
何度となく足を踏み入れた場所なのに、まるで他人の家のように遠く感じるそのアパートを見上げたあたしは、ゴクリと生唾を飲み込んでから、カツンとヒールを鳴らした。
あたしから始めた割り切った関係は、その曖昧さ故か、終わりが見えないままここまで来てしまった。
心と身体を切り離せるほどあたしは器用にはなれなくて。
身体を重ねる度に、想いはどんどん膨らんでいった。
それでも陽介に自分の気持ちを知られないように、彼氏を作ったり、他の男と遊んだりもしてきた。
ちょっとでも嫉妬してほしいなんて思いながら。
でも、陽介はあたしに対してそんな感情など微塵も持ち合わせていなかったのだ。
陽介は根が遊び人気質だったのか、あたしと関係を持って以来、その頃つきあっていたカノジョと別れ、あたしとひたすらヤるだけの関係を続けたり、気まぐれで新しいカノジョを作ったり。
あたしが他に男と遊んでいる以上に、女遊びがエスカレートしていった。
そのくせ、あたしと身体の相性がいいと言ったのはあながち嘘ではなかったらしく、陽介は他の女と遊んだり付き合ったりする一方で、あたしを手放すようなことはしなかった。
でも、決して一番手にはなれない、セカンドの女。
もちろん、セカンドというポジションが辛くて、この関係を断ち切ろうと決意したことは何度もある。
でも、あたしがそう決意した時に限って、わざと快楽の欲に溺れさせ、「好きだよ、くるみ」なんてその場しのぎの言葉であたしを繋ぎ止める陽介。
ズルいのは、あなたの方。
好きなら、何であたしはカノジョになれないの?
でもそう問い詰められないのは、惚れた弱味。
問い詰めて、陽介に捨てられるのが怖くて、ただ求められるままに身体を開くだけ。
陽介は、あたしに彼氏ができてもお構いなしに抱くし、結局あたしだけが好きでいた関係だったけど、いつしかこの関係でもいいか、と妥協するようになってきた。