それだけでよかった-4
「やっぱくるみの言った通りだったわ。俺、知らないうちにメグを追い詰めていたみたい」
自虐的に笑う陽介は、そう言って短くなった煙草を灰皿にギュッと押し当てた。
白く濃い煙がふわんとあたしの鼻をかすめる。
「価値観の違いなんて、何バカくせーことで悩んでんだって考えてたけど、そう言われてたって知って、結局俺の方が気にしてたみたいでさ」
「…………」
「デート一つにしても、俺はメグに無理に合わせてるつもりなんてねえのに、イヤイヤ付き合ってるって思われてたと思うと、どんどん不安になるんだよ」
「陽介……」
「そういう小さな不安がさ、どんどん積み重なっていくと全部悪い方向に考えちゃうんだ。結局俺って信頼されてないのかなって」
そう言ってあたしが作ったアイスコーヒーをグイッと飲む陽介。
あたしは上下に動く喉仏を黙って見つめている。
陽介はいつだって飄々としていて、感情的になることなんてなかった。
当たらずさわらず、のらりくらり。そんなイメージの強かった彼。
それが、今はどうだ。
寝起きでボサボサな頭、少し伸びてまばらになった無精髭。
いつも小綺麗でおしゃれな陽介とはかけ離れた今の姿に、あたしは胸がザワザワ落ち着かなかった。
きっと、どこかで恵ちゃんを見くびってたんだろう。
女関係を清算して真摯に向き合う陽介の話を聞いても、心のどこかで自信はあった。
あたしには、歴代のカノジョ達より、遊ぶだけの女より、長い間陽介と過ごした時間があったから。
陽介は女の子に本気にならない人って思ってたから。
でも、肩を落とす彼の姿を目の当たりにすると、不安はどんどん膨らんでいく。
……やっぱり、恵ちゃんは本気で好きなの?