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forget-me-not
【女性向け 官能小説】

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それだけでよかった-3










「簡易的なアイスコーヒーだけど、いいよね?」


陽介は煙草をふかしながら、黙ってあたしの手の動きを見つめているだけ。


うんともすんとも言わない陽介を尻目に、氷をグラスいっぱいに詰め込んで、熱いコーヒーを注げば、パキパキと氷が割れる音が響いた。


それをローテーブルの上に置こうとするけど灰皿やら、食べ終えた後のカップラーメンの容器やら、雑誌なんかが散乱していてスペースがない。


仕方なしにテーブルの下に雑誌を置いてから、陽介の目の前にアイスコーヒーを置いた。


……散らかってるなあ。


元々ズボラな陽介は、部屋が綺麗なことなんてあまりなかったけど、こんなに散乱しているのは初めてかも。


あちこちに脱ぎ散らした服。ごみ箱に入らずすぐ側に落ちた紙くず。封をしたままのダイレクトメール。ベッドから落ちているタオルケット。


この荒れた部屋が、陽介の余裕の無さを投影してるみたいで、あたしはチクリと胸が痛んだ。


恵ちゃんのスマホから、陽介の連絡先を盗み取って、何食わぬ顔で陽介に電話をして。


最初は声を聞くだけで充分だって思ってた。


久しぶりに陽介に電話をした時、彼はもちろん驚いていたけど、「恵ちゃんが番号を教えてくれた」と言ったら、少し戸惑っていたけど、すぐに昔みたいに気さくに話してくれた。


陽介の変わらない態度、それが何よりも嬉しくて。


そして、そんな態度があたしを欲張りにさせた。


変わらないなら、前みたいに戻れるんじゃないかって。


恵ちゃんさえいなければ、陽介はあたしの所に帰ってくるって。


思い詰めたあたしが、悪魔になるのは至極当然のことだった。


だから、あたしは電話越しに言ったんだ。


――恵ちゃん、陽介とのことで随分悩んでるみたい、と。




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