THANK YOU!!-3
恥ずかしさがようやく取れた瑞稀は顔を上げた。恥ずかしさが取れた、でも逆に拓斗に対する罪悪感が溢れてきた。
真正面から拓斗と顔を合わせるのは久しぶりのことで、少し気恥かしさもあるが懐かしさも感じる。
一度視線を下げて、もう一度見上げる。
「・・・」
「・・・」
先程まであんなに笑い合っていたというのにお互い、何を話していいか分からずに戸惑う。
「・・あのさ、」
「・・・ん?」
その中で、口を開いたのは目の前の彼を深く傷つけたハズなのにいとも簡単に許してもらえた瑞稀だった。
「・・本当に、いいの?私、拓斗を・・傷つけたんだよ?」
「お前な・・、さっき良いって言っただろ?」
「だけど!」
「じゃあ聞くけど、お前は別れようって言った挙句にあんな最低な言葉を吐いた俺でも良いのか?」
今だに納得出来ない瑞稀が食い下がるのを見て、拓斗は呆れながらも実は自分も聞きたかった事を聞く。
瑞稀は反射的に顔を上げて声を荒げる。
「そんなの当たり前じゃん!大体、さっき撤回してくれたんだし・・」
「・・うん。」
「それに、元々頼らなかった私のせいだし・・」
自分で良いと改めて言われたことと、頼らなかった事を自覚してくれた恋人に一つの安堵が生まれる。
「それと同じだよ。俺だって、さっき謝ってくれたし、そうやって頼らなかったって自覚してる。何の問題もないだろ?」
「・・そうだけど・・」
「大体、瑞稀がそういう奴だって百も承知で付き合ってる。まぁ今回はお互い言葉足らずで余裕が無かった。再会してから遠距離なんて初めてだし。初めてのすれ違いってことで良いんじゃないか?」
「・・・拓斗・・」
照れくさそうに笑う拓斗を見て、瑞稀は顔を歪める。
どう見ても、瑞稀自身に原因があるにも関わらずこうして優しい答えをくれる恋人が眩しすぎて思わず涙が溢れそうになる。
今なら、ううん、今だからこそ。
「・・私、は・・」
「うん?」
涙に震える声で、学生の頃から胸に秘めて、自分を支えてきた想いを言葉にする。
「・・・私は、夢を追うあなたの・・拓斗の恋人、として、情けない姿を、姿で、隣に立っていたくない・・見せたくない・・。」
「・・うん」
「だから、多分これからも・・無理すると思う。今回みたいなことも・・また。」
「・・・・うん」
「・・それでも、好きで居て・・ほしい、です・・」
最後は顔を見れずに拓斗の胸に顔をうずめてしまったが、全て伝えた。
ふうっと一息ついた時、頭に懐かしい、大好きな温もりが乗った。
顔を上げると、目に入ったのは少し顔が赤くなってるものの、優しい表情をしている拓斗だった。目を瞬かせていると、頭が撫でられる感触が分かり目をつぶる。
その感触に心地よさを感じていた刹那、べしっと痛い衝撃に変わった。
「いった!!」
思ってなかった痛みに思わず頭を抑え、座り込む。こんなことをするのは一人しか居ない。
そんな瑞稀の頭をチョップするという雰囲気ぶち壊しなことをした拓斗は、瑞稀に合わせてしゃがみこむ。
「・・拓斗、痛いんだけど」
「瑞稀がバカなこと言うからだろ」
「何で!ずっと想ってたこと言っただけでしょ!?」
「そりゃ有難いし伝わったけど、最後のは要らないだろ!」
「は!?何で!?」
痛みを堪えつつ、目の前にある拓斗の顔を睨む。
要らないとは何だ、要らないとは。一番重要なところではないか。そう視線で訴える瑞稀。
一方の拓斗は呆れの溜息を吐く。しかも深く。
「俺が瑞稀を好きじゃなくなる訳無いだろ、それくらい分かってろよバカ」
「・・!!」
言ったのは自分なのに恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった拓斗の横顔を凝視する瑞稀。再び静寂が訪れた。
「・・・・」
「・・・・」
「何か言えよ!!」
「・・え、いや、・・拓斗って意外と大胆発言するよね・・昔から思ってたけど」
「・・それ言うなよ・・」
今度は拓斗が顔を赤くして頭を抱える番だった。そんな拓斗を尻目に普段なかなか見られない光景に瑞稀は笑った。
瑞稀の屈託ない笑顔を見た拓斗も、最初は口を尖らせていたが次第におかしくなって一緒に笑う。
とんでもない仲直りの仕方だったけども、これが自分たちらしいなと瑞稀は思った。
自分たち以外に誰も居ないホールに二人分の笑い声が響いた。
それは、綺麗なメロディになれる程の心地いいものだった。