穏やかな出会い-4
◆
その部屋はこぎれいなワンルームマンションだった。
良平は三階の一番端にある部屋の前に立って、呼び鈴を押した。
すぐにドアが開き、ピンクのスウェット姿の女性が顔を出した。「良平! 待ってたよ。上がって」
良平は狭い玄関で靴を脱いだ。そして振り返ってつま先を外に向けようとしゃがんだとき、玄関の傍らに空になった白い瓶とハイボールの空き缶が置かれているのに気づいた。
部屋のテレビから派手なロックのリズムと、ヴォーカルの絶叫が聞こえる。
「沙恵、君は焼酎も飲むようになったのか? ハイボールは前から飲んでたけど」
部屋に入って上着を脱ぎながら、良平はベッドに座った恋人沙恵(24)に問いかけた。
沙恵は小さく舌を出して良平を見上げた。「最近飲むようになったんだよ。レモン入れて炭酸で割って飲むの。おいしいよ」
「俺の前では一度も飲んだことないだろ、そんなの」
「友達に教わって飲んでみたらおいしくて。病みつきになっちゃったんだ」
沙恵は髪をブラシで梳きながら屈託のない調子で声を弾ませた。
「それにしても、いつの間に一本も空けたんだ?」
「だって……」沙恵は声を落とし、床のカーペットに座った良平の横に来て身体を密着させた。「良平、なかなか来てくれないじゃない。あたし、寂しかったんだから……」
良平は沙恵の肩に手を置き、もう片方の手で沙恵の顎を持ち上げて、唇を重ね合わせた。
ほのかにタバコの匂いがした。
そっと口を離した良平は、沙恵の髪をそっと撫でながら、耳元で囁いた。「ごめん、寂しい思いをさせちゃって……」
良平はぎゅっと沙恵の身体を抱きしめ、カーペットの上に横たえると、その身体を彼女に覆い被せ、腕をつっぱったまま彼女の瞳をじっと見つめた。
「沙恵……」
「良平、来て……」
良平は眼鏡を外してネクタイを抜き、シャツのボタンを焦ったように外した。
下着姿になった良平は、うっとりと顔を上気させた沙恵の身に着けていたスウェットを脱がせ、同じように下着姿にした後、ゆっくりと身体を重ね合わせた。
沙恵と熱いキスをしながら、良平はブラのホックを外し、溢れた乳房を両手で揉みしだいた。
んんっ、んっ……
沙恵は口を塞がれたまま、喉の奥で呻いた。
ベッドに沙恵を横たえた良平が言った。「沙恵、テレビ消してくれないか?」
「どうして?」
「こういう騒々しい音楽は、俺、どうも苦手で……」
「えー、かっこいいじゃん。V系バンドの歌」
沙恵は口をとがらせて枕元のリモコンのボタンを押した。部屋が突然の静寂に包まれた。
全裸になった沙恵の秘部を時間を掛けて唇と舌で愛撫しながら、良平はバッグからライトブルーのパスケースを取り出し、挟まれていたプラスチックの包みを手にした。そして、それを破って中に入っていた薄いゴムを取り出すと、自分のいきり立ったものに被せた。
「良平、来て、早く来て!」
「いくよ、沙恵」
良平は再び沙恵の口を吸った。沙恵は一瞬目を開き、眉の間に皺を寄せ再び目を閉じた。
良平のペニスが沙恵の中に入り込むとき、沙恵の身体が一度ビクン、と小さく跳ね上がった。
良平はリズムをつけて沙恵の中で動いた。そしてしだいに息を荒くしていった。
沙恵も良平の背中に腕を回し、喘ぎながら身体を同じように上下に揺すった。
「さ、沙恵! イ、イく、イくよっ!」
「良平!」
沙恵の爪が良平の背中に食い込んだ。同時に良平の身体の奥から熱く沸き立ったものがペニスに被せられたコンドームの中に放出され始めた。
「んっ! んっ! んんっ!」良平は身体を仰け反らせて、苦しそうに歯を食いしばり、その脈動が収まるのを待った。
「ああっ!」沙恵が叫び、良平の背中に回されていた腕が解かれ、力なくシーツの上に落ちた。