〈哀肉獣・喜多川景子〉-2
「開かない……」
ドアノブはガチャガチャと空回りするだけで、扉は押しても引いても動かない。拘束を解かれた二人を監禁するのだから、扉が開くはずも無いのだが……。
……と、ドアノブは奈和の意思とは無関係に回り、ガチャンと音を発てて静かに開いた……「あのオヤジが入って来る!」……そう思って二人は部屋の奥の方に逃げ、隅っこで身構えた……そんな二人の前に現れたのは、想像だにしない人物だった……。
『……お食事……持ってきました……』
二人の前に現れたのは、とても綺麗な女性だった。
『お腹空いてますよね……?』
唖然とする二人の顔には、もちろん意味はあった。
その女性は、航海の最中に観せ続けられた凌辱シーンの登場人物であったし、カチューシャで作られたピンク色のウサギ耳と、同じくピンク色のスクール水着を着た珍妙なバニーガール姿だったからだ。
真っ赤なハイヒールに慣れていないのかギクシャクと歩き、湯気の立つ料理皿の並べられた食器トレーをベッドの上に静かに置いた。
「……あ…貴女……名前は?」
『……架純………』
優愛と奈和の顔は再び凍りついた……その架純と名乗った女性の腕や太股には縄目の跡が付いており、それはつい今しがたまで緊縛されていた事を意味する……。
『冷めないうちに食べて。変な物は入ってないから安心してね』
並べられた料理皿には炊きたての白米や、明らかに日本の物ではない海老や貝がたくさん入った魚介スープが、美味そうな香りと湯気を立てている。
二人に向かってニッコリと架純は微笑んだが、その瞳には哀しみ以外無く、ただ口角を上げているだけの不自然な笑顔だった。
「……ま、待ってよ……私達をココから連れ出してよ……ね?」
二人分の食事を置いて帰ろうとする架純の背中に、奈和は恐る恐る声を掛けた。こんなか弱い女性が一人で往き来できるのなら、何処かに抜け道があるかも知れない。と、奈和は思ったのだ。
この部屋が連なって出来ている監禁棟の事や、それらを高い壁で囲んでいるこの刑務所のような施設を、奈和はまだ知らないのだ……。
「ちょっと、なんで無視すんの?答えなさいよ!」
どうにか逃げられないかと逸る奈和は、答えようともしない架純に駆け寄り、肩を掴んで振り向かせた。
その反動で架純はふらつき、慣れないハイヒールと相まって、扉に寄り掛かる格好となってしまっていた。