大好きだった人-9
「いつ以来だっけ、会うの」
いつもの軽い口調に安堵しつつ、あたしもいつも通りを演じる。
「あー……8月半ばくらいだったかな」
「ああ、いつもと違うホテルに行った日だったよな。
“ダ・ヴィンチ”とかいうふざけた名前の」
塁がニヤリと笑う一方で、あたしは思わず眉間に力が入っていた。
久留米さんに偶然ホテル街から出てきたとこを見られた日。
そして自分の気持ちがハッキリわかり、久留米さんの過去を知り、拒絶された日。
あの時塁が誘わなければ、なんて八つ当たりのような苛立ちが込み上げてくる。
「あれからお前、全然連絡くれなかったじゃん、どうしたのかって思ってさ」
「珍しいね、塁がそんなこと気にするなんて」
誘いに乗ったのは自分のクセに、塁の何も考えてなさそうな物言いにムカついたあたしは、少しイヤミっぽく言い返してやった。
でも彼はそんなことに全く気付かず、再び煙草を口にくわえると、大きく煙を吐き出した。