割り切った身体、割り切れない心-1
◇
「うぃー、コーヒー入ったぞ」
煙草の香りがほんのり残る部屋の中、あたしはボンヤリ陽介がコーヒーを持ってきてくれる様子を眺めていた。
カノジョが用意したのか、陽介からはあまりイメージできないハートドット柄の、ラブリーなマグカップが二つ。
それは役割が決まっているかのように、赤いハートがあたしに、青いハートが陽介になるように、ガラステーブルにコン、と置かれた。
カノジョ専用であろうマグカップを、平然とあたしに使わせる無神経さにコッソリ呆れてしまう。
……いや、無神経なのはあたしも同じか。
彼氏がいるのに男友達と遊んでばかりいるから、あたしは愛想を尽かされたんだもんな。
スグルと別れて間もないのに、その原因となった男友達のアパートで、呑気にコーヒーを飲む自分に苦笑いになりながら、あたしはマグカップを口に近づける。
でも猫舌なあたしは、何度かフウフウ息を吹き掛けるだけで、なかなかコーヒーを飲めなかった。
だからせめて香りを楽しもうと、湯気を浴びるかのように鼻を近付ける。
インスタントだけど、香ばしい匂いを嗅いでいると、ホッと息をついてしまう。
ああ、落ち着くなあ。
失恋で受けた傷を癒してくれる優しい香りについついジワッと涙が出てきそうになった。
陽介はそんなあたしを見て、フッと微笑み長いまつ毛を伏せると、徐にコーヒーを飲み出した。
二人の間に流れる、珍しい沈黙。
いつもなら、矢継ぎ早にバカ話をしたり、ゲームのコントローラーをあたしに寄越して、早速ゲームの続きをしようとするのに、今日の陽介は何だか落ち着いていて、あたしは逆に落ち着かなかった。
あたしが振られたの、バレてるのかな?
一向に口を開こうとしない陽介が何だか怖い。
その大きな瞳で全てを見透かしていそうな気がして、あたしは思わず下を向いた。
いや、別れたなんて言ってないからバレてないはず。
でも「友達」なら、陽介には別れたことくらいは言わないといけないかな。
頭の中でどう切り出そうか手探り状態で考えながら、ゆっくりゆっくりカップが唇に触れると、あたしは思わず顔を上げて陽介を見た。