割り切った身体、割り切れない心-5
「……は?」
一瞬、大きな瞳をさらに見開いた陽介は、そのままあたしを睨み付けてきた。
怯みそうになるけど、何とか笑顔を崩さないよう、目を反らしつつあたしは続ける。
バカなこと言ってるのはわかってる。
でも、軽い女を演じなければ、真面目にスグルを愛して裏切られたあたしが惨めになるだけなの。
だから、少し位はカッコつけさせて。
「そんな怖い顔しないでよ。あたし、スグルと別れてしばらくエッチしてないから欲求不満なんだよね。一応スグルには操を立てて来たつもりだったけど、もうその必要もないし、これからは遠慮なく遊ばせてもらおうと思って」
スッと陽介の背中に回り込んだあたしは、そのままゆっくり彼の身体に腕を回す。
あたしは遊んでいる女。だから誰にも本気にならない。
そう自己暗示をかけると、陽介の背中に頬擦りをした。
染み付いたタバコの香りがふわりと鼻をくすぐる。
タバコが嫌いなあたしだけど、今はこの香りがやけにあたしの心を落ち着かせてくれた。
スグルにあてつけてやるという気持ちが大前提なんだけど、だからといってそれだけが理由ってわけじゃない。
せめて今だけでいいから、身体だけでいいから、誰かに求められたいの。
「…………」
「ね? 陽介、エッチしよ? カノジョには内緒にしとくし、絶対でしゃばるような真似しないからさ」
「くるみ……ダメだって……」
反応が悪い陽介に、段々あたしの顔も曇る。
ナンパするくらい軽い男なのに、何で誘いに乗らないの?
そんなにカノジョが大事なの?
その答えはわかっているけど、感情が押し寄せて止まらなかった。
一人ぼっちはもうイヤだよ。
陽介の身体にしがみついた手でスウェットをキュッと握り締める。
身体だけでいいから、必要とされてるって思わせて。
――この辛さから、救い出して。
「……陽介、お願い……」
軽い口調で言うつもりの言葉は、涙声になってしまった。
静まり返った部屋で、あたしのしゃくりあげる声が響く。
遊んでいる女を演じるつもりが泣いちゃうなんて、あたしはとことんダサいなあ。
スグルには浮気されて振られて、陽介には拒まれて、カッコ悪いことこの上ない。
やっぱりあたしには遊んでいる女なんてなれそうにない。
握り締めていたスウェットから手を離そうとした、その時、
「……っ!」
陽介はくるりと振り返ったかと思うと、そのままあたしの唇を塞いでいた。