割り切った身体、割り切れない心-4
陽介の顔はやけに険しい。
「だからさ、別れちゃった」
「は? 何だよそれ。なんでそんなヘラヘラしてられんの?」
浮気したスグルに腹を立てているのか、ヘラヘラしてるあたしに腹を立てているのかは分からない。
けれど、きっと親身になってくれているからこそ、こんな怖い顔しているのだろう。
でも、悔しいとか悲しいとか、自分の正直な気持ちを打ち明けることは、どうしてもできない。
慰めて欲しいのに、憐れまれるのが怖かったから。
そんなあたしは、自分を偽ることしか出来なかった。
「だってさ、彼氏の浮気の原因はあたしが陽介と遊んでばかりだったからなんだって。はあ、何それ? って感じじゃない?」
彼氏と別れても全く動じない女。悲しさよりも僅かなプライドが、あたしをそんな女に仕立てあげる。
「…………」
「だいたいあたし達、何も疚しいことしてないのに、勝手に誤解して、浮気って、アホかっつうの」
ペラペラ舌が勝手に動くあたしを、陽介はただ黙って見ていた。
あたし、男と別れたくらいでいちいち泣かないよ。
幸せな陽介に、比べられたくない一心であたしは軽い女を演じた。
「スグルってさあ、男のくせに束縛が結構きつかったから、陽介と遊ぶのが耐えられなかったんだろうね。でも、正直スグルの付き合いが重かったから、解放されてせいせいした!」
思いっきり腕を伸ばしてみると、ホントにそんな気がしてくる。
言霊なのか、自己暗示かはわからないけど、泣くほど恋しかったスグルの顔が、モヤがかかったみたいにボヤけていくのを感じた。
「くるみ……お前、無理してねえ?」
「やだ、そんなわけないじゃん。そもそも束縛きつい男って苦手なのよ。あたし、自分も遊びたいから相手も遊んでいて欲しいんだよね。スグルも浮気できるんだって見直してたのに、浮気相手にちゃんとしたいからって、別れるなんて、ホントつまんない男」
「……お前は付き合ってる男が浮気しても平気なの?」
「平気……だよ。ってか、それくらい甲斐性のある奴じゃないと、男として魅力を感じないもん」
「…………」
じっとあたしを見つめる陽介に、密かに心臓はバクバクだった。
虚勢を張ってる自分が見破られているんじゃないか、とか、ホントは振られて泣きたいのを無理して強がる姿が痛いって思ってるんじゃないかとか。
そして陽介に同情だけはされたくなかった。
だったら演じてやる、強い女を。
男なんかに本気にならない、軽い女を。
やがてあたしは、ゆっくり瞬きをしてから、ハリボテの笑顔を作って口を開いた。
「ねえ、陽介? エッチしない?」