割り切った身体、割り切れない心-2
……あれ?
つられたみたいに陽介がカップを口元に運ぶ様子をじっと見ながら、あたしはポツリと呟いた。
「陽介、砂糖入れた?」
元々コーヒーはブラック派のあたし。
何度も遊ぶ内に、陽介もそれをわかってくれて、あたしにコーヒーを淹れてくれる時は必ずブラックを寄越す。
だから、今さら間違えるはずがないのに、なんで?
キョトンと陽介を見つめていると、彼は一口コーヒーを飲んでから、長いまつ毛を伏せてフッと笑った。
「疲れた時には甘いもんがいいって言うだろ?」
「へ?」
訳がわからず目を丸くしていると、彼はようやくあたしの方を見た。
とっても、とっても優しい顔で。
それだけで鼻の奥がツンとしみて、また涙が出てきそうになる。
「な、何言ってんのよ。あたし、別に疲れてなんかないよ」
「うーん、何となくそう見えただけだったから。甘いもんでも飲んで、元気になればなあって思っただけ。勘違いならそれでいいや。砂糖入りがイヤなら、淹れなおすけど?」
「……大丈夫」
「そ」
陽介はニカッと笑ってそれだけ言うと、側にあった漫画雑誌をペラペラめくった。
……陽介。
漫画を読み出す陽介の背中を見ていると、気付かない内に涙がハラハラ溢れていた。
頬を伝って落ちた涙は、マグカップの中のコーヒーに一滴、混ざり合っていった。
陽介のさりげない優しさが、嬉しくて。
――そして、あたしをたまらなく惨めにさせた。
スグルの浮気で終わったあたしの恋。
最近でこそすれ違ってばかりで、スグルとの時間を大切にしなかったあたしだけど、それでもスグルと過ごしていた時間はかけがえの無い宝物だった。
それをカズネという女にかっさらわれて。
後に残ったのはどうしようもない悲しみ、スグルがいない寂しさ、そして、スグルとカズネに対する憎しみだ。
あたしがこんなに辛いのにスグルとカズネは今頃楽しく笑い合っていると思うと、どうしようもなく苛立ちが込み上げてきて、この世の幸せなものを全て壊してしまいたくなる。
ふとマグカップに目を落としたあたしは、ギリッと奥歯を噛んだ。