割り切った身体、割り切れない心-16
「俺……、カノジョ……」
「陽介!」
気付けばあたしは、陽介の言葉を大きな声で遮っていた。
ポカンと口を開けたままの陽介に、あたしはニッコリ笑って見せる。
「すっごくよかったよ、さっきのエッチ! 恋愛感情抜きで割り切ってするエッチって楽でいいね」
「あ?」
「当分恋愛は面倒くさいから彼氏はいらないけど、欲求不満な時はこうして解消できたらいいな。ね、これからもあたし達こうやって割り切った関係でいない?」
また勝手に回る舌が、目の前の現実からあたしを守ろうとしている。
陽介の負担にはならないから。
あなたを好きにはならないから、――捨てないで。
「お前、それってどういう意味か知ってんの?」
「知ってるよ、セフレってことでしょ。あたし達、身体の相性がいいみたいだし、……どう?」
声が震えそうになるのをなんとか抑えながら、明るい口調と笑顔でごまかす。
そんなあたしを、陽介はただ黙って見つめていた。
「……もちろん、陽介が嫌ならただの友達に戻るし、さっきのエッチもなかったことにするよ? そん時は仕方ないから他に相手探さないといけないけどね」
「それって、セフレを探すってことか?」
ちょっと視線が鋭くなったような気がして、一瞬背中がゾクリと粟立つ。
でも、ここで動揺したらダメだ。
「当然! 彼氏は当分懲り懲りだもん。割り切った関係の方がいいしね」
軽い女を演じると決めた以上、あたしは陽介を望んじゃいけないのだから。
だからと言って、甘い蜜の味を知ってしまった身体は、もう今までの関係に戻れないことをわかっている。
だったら、セフレでいいから、側にいたい。
陽介が拒むなら、他を探すと言ったのは最後の逃げ道だ。
少しでも傷つかないための精一杯の防御。
それでも、陽介の答えを待っているのは、心臓が張り裂けるくらい緊張していた。
やがて、陽介が小さくため息を吐く。
その吐息が思ったよりも大きく部屋に響いて、驚きのあまり息を呑んだと思ったら、再び陽介はあたしの身体を押し倒していた。
タラリとすだれみたいに垂れる前髪から覗く瞳は、ゾクッと鳥肌が立つほど妖しく綺麗。
そんな真っ直ぐな視線であたしを見下ろした陽介は、
「……お前、ズルいよ」
と、蔑むようにそれだけを吐き捨て、あたしの身体を包んでいたタオルケットを乱暴にひん剥いて、覆い被さってきた。