ルージュ×ブランシュ-3
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「……欲しかったなら、どうして宿の娘さんが配っていた菓子を断ったりしたのです?」
理不尽な怒りを向けるミスカを見上げ、エリアスは詰問した。
さすがにチョコレートを渡せなかった話をする気にはなれなかったが、とにかく怒られる筋合いはない。
言った瞬間、金色の瞳に宿る怒気が燃えあがった。
「俺は、エリアスからだけ欲しかったんだよ!」
「な……っ」
反論する間もなく、壁に押し付けられて唇を塞がれた。息が上がるまで、散々口内を嬲られる。
「他の祭りなら何だって楽しめるさ。けど、愛の告白なんて菓子なら、気楽な冗談でも他のはいらない」
非常に珍しく耳まで紅潮させているミスカが、視線を逸らして呻いた。
「……もしかしたら、エリアスも一度くらい、素直に言ってくれるかも……って、期待したんだよ! 悪いか!?」
「っは……そ、んな……言ってもらわなければ……」
判る訳がない。と言いかけ、エリアスはギクリとする。
同じだ。
エリアスが言えないように、ミスカも素直に言えなかったのだ。
「……わたくしは菓子を渡そうと用意しておりましたよ。ミスカが興味なさそうでしたので、やめただけです」
エリアスも諦めて白状する。
「はぁっ!? くぁ〜っ!! なんだよ、それ!!」
頭を抱えてしゃがみ込んだミスカの口に、琥珀色の小粒キャンディーを一つ、押し込んでやった。
「そういうことですから、わたくしが気に病む筋合いは、まったくございません。来年、気が向いたらまたご用意しますよ」
「ふーん……あー、そう」
ミスカがコロコロと口の中でキャンディーを転がし、不貞腐れた返事をする。そして両手を素早く動かした。
空気中の水分が凝縮され、細い水触手のロープとなってエリアスの手足を拘束する。
「それじゃ、今日はこれで我慢する」
「こらっ、ミスカ!? なにを……んんっ!!」
重ねられた唇の合間から、キャンディーが舌で押し込まれた。
エリアスの口内で味わうように、差し込まれた舌が小さな甘い塊を転がす。
いつもより甘い甘い口づけは呆れるほど長く続く。その合間にもミスカの手が服の隙間から忍び込み、教え込まれた快楽に肌が粟立つ。足から力が抜けても、水触手で拘束されながら吊るされたような状態なので、崩れおちることもできない。
ミスカには異常に早く反応するようになったとはいえ、感度を鈍く作られた身体を昂ぶらせるには、それなりの労力が必要だ。
それでもミスカはいつだって、エリアスが十分に乱れるまでは、絶対に自分の欲を満たそうとはしない。
すっかり潤った部分を指でかき回されるころには、キャンディーも殆ど溶けてしまったいた。
濡れそぼった秘裂をなぞられ、肩に担がれた片足がビクビクと引きつる。
「んっ……んん」
ミスカ以外には決して得られない快楽に、エリアスは身悶える。金色の視線が、満足そうにそれを確認していた。
「はは……なぁ、エリアス。ルージュ・ディでなくたって、いつでも素直に言ってくれて良いんだぞ」
下肢を嬲る手は休めず、楽しげにミスカが笑う。もう怒気は跡形もなく消え失せていた。
エリアスから水触手が解かれ、寝台に移されて全身を執拗に愛撫され、さらに蕩かされていく。
恥も外聞もなく本物の喘ぎ声があがり、内部の疼きに耐えかねて腰を揺らめかせた。
「ぁ……ミスカ……」
きっと非常に物欲しそうな顔で、見上げてしまったのだろう。潤んだ視線の先で、ミスカが嬉しそうにニヤついている。熱い塊を一息に突き入れられ、衝撃に仰け反り喘ぐと、耳朶を甘く噛まれた。
「ほら、言ってみろよ。『ミスカ、大好き! 愛しています』って。簡単だろ?」
囁きの甘さに眩暈がする。
「あ、ぁ……は……あぁ……」
震える両手を伸ばして必死に抱きつき、硬く目を瞑った。
「だ、だ……いっす……きらいです!!」
―― こんな理不尽で我がままで意地っ張りな男は、もう一年くらい待たせてやったほうがいい。