投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

どこにでもある ただ ちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

どこにでもある ただ ちいさなおはなしの最初へ どこにでもある ただ ちいさなおはなし 9 どこにでもある ただ ちいさなおはなし 11 どこにでもある ただ ちいさなおはなしの最後へ

どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-10

男は額に当てた手と反対側の手で何かをつかむように空中で動かした。
額に当てた手にその手を重ねてから、起き上がろうとする女の体を抱き起こした。

「な、何。何なの?」

女は動揺しその腕から逃れようとし、顔を横に振った。
しかし男の力には敵わず、また、男は額から指を離そうとはしなかった。
長い男の青い髪が女の顔に掛かる。
顔を寄せ目を見つめる。

「ずっと昔俺たちはこうやって抱き合って愛を確かめた」

女の顔が変わる。
額に当てた指からすこしずつ金色の光りが漏れる。
鼓動が早くなる。

「お互い同じ時に命が果て、役目も終わって。もう、本当にお終いだと思っていたのに」

男の口調が強くなり表情が曇る。
女はなぜか体が震えていた。
しかし、抱きしめてもらっている事が心地良くて、体の力が抜けていく。


「探したよ。でも迷った。やっと普通の生活をしているのに、君もまた巻き込まれていいのか。俺だけじゃだめだったのか。でも君が必要なんだ」

抱きしめる腕に力が篭る。
女は混乱した頭の中でなんとなくだが思っていた。

この人、私の、大切な……


男が耳元に口を寄せた。
優しい声で囁く。
それは本当に愛する人へ愛の告白をするような声音で。

「だから、名前を呼ぶよ。きっと、すべて思い出す」

待って、待って。だって、それは。

女の心臓が暴れる。声が出せない。
届かない思い。でも、期待も、どうしてかしている。
お願い、早く、名前を言って、と。


一度耳にキスをしてから男が聞こえないくらい小さな声で女の名前をつぶやいた。

額に当てられた指から光が女に入っていく。
赤い石がそっとその額に現れた。

女が目を見開く。
ふわりと風が舞い、二人の長い髪が揺れた。
目からポロポロと涙が零れる。
男の背に手を回し力強く抱きしめて掠れた声で男の名を呼んだ。


「ジャ……ク……」

今は何も考えたくなかった。
理由も、訳も。
ただ、もう一度逢えた事だけが嬉しかった。

「久しぶりマイラ。今も君を愛してる」

目を閉じてジャックが呟く。

マイラはついに嗚咽を上げ始めた。



どこにでもある ただ ちいさなおはなしの最初へ どこにでもある ただ ちいさなおはなし 9 どこにでもある ただ ちいさなおはなし 11 どこにでもある ただ ちいさなおはなしの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前