届かない想い-1
あたしがジッと久留米さんを見据えていると、彼の手がゆっくりあたしの方に伸びてきた。
思わず目を見開き、ゴクッと喉が鳴る。
久留米さんはあたしの瞳をじっと捕らえながら、その大きな手をあたしの頬にそっと添えた。
ほんのり彼の指先に残った煙草の匂いが、鼻をくすぐる。
彼があたしに初めて触れた瞬間、心臓がキュッと縮まったような気がして、身体もビクッと震えてしまった。
思いの外ひんやりした指先に身体がびっくりしただけじゃない。
ずっとあたしに対して、一線を置いていた彼が、初めてあたしに“男”としての振る舞いを見せてくれたからかもしれない。
心臓はこれ以上ないってくらい激しく動いているくせに、身体だけは金縛りにあったように動けなくなり、久留米さんを見つめるだけだった。
けれど、彼は何をするわけじゃなく、そのまま手を元に戻してしまう。
そして、
「俺には、前に進む資格なんてないんだよ」
とだけ呟いた。