届かない想い-19
すると意外にも、彼は苦笑いを浮かべつつ、
「そのつもりでいたんだけど、最近自分の気持ちがよくわからなくなるんだ。
あれだけ大好きだったアイツの顔や声がもやがかかったように思い出せなくなる。
人ってこうやって、気持ちが少しずつ変わっていくのかな」
と言った。
やはり時間は、人をゆっくり、確実に痛みを和らげてくれるのかな。
だとしたら、卑怯でもいいからこの人にできた心の隙間に入りたい。
「だったら、副島主幹の言った通り、前に進んだらいいじゃないですか……。
久留米さんがこの出来事に縛られて苦しんでいる必要はないと思います。
茂さんや芽衣子さんの分まで幸せにならないと、二人も悲しむんじゃないですか……?」
あたしは、すがるように久留米さんの手を掴もうとした。
しかし彼は、あたしの手を思いっきり跳ね除ける。
そして初めてあたしに向けた彼の苛立った表情に、思わず怯んでしまった。
そんなあたしにさらに舌打ちをした彼は、
「アイツ等が死を選んでしまった直接の原因は俺が作ったんだぞ!
俺が芽衣子に手を出してしまったばっかりに茂を追い詰めて、茂を奪われた芽衣子を追い詰めて……。
そんな俺がのうのうと、アイツ等の分まで幸せになんてなれるわけねえだろ!
部外者がわかったような口きくんじゃねえよ!」
と、怒号のような剣幕を見せたので、あたしの身体はビクッと強ばったまま動けなくなった。