浴室-3
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ベッドの横に立ったケンジに真雪は言った。「咥えてあげるよ、ケンジおじ」
「今はだめ。絶対だめっ!」ケンジはきっぱりと言った。「俺、シャワー浴びさせてもらう。止めるな! 真雪」
真雪は笑った。「何それ。そんなに力んで言わなくても」
「おまえの口を無駄に汚すつもりはない。これだけは譲れないから」
ケンジはそう言ってバスルームに入っていった。
すぐに真雪も彼の後を追った。
「こっ、こらっ! 真雪、なんで入ってくる?」ケンジは慌てて股間を押さえた。
「え? いいじゃない。恋人同士ならホテルではこれが普通でしょ」
「だれが恋人同士だっ!」
「遠慮しないで、ケンジおじ」真雪は微笑んだ。
「は、恥ずかしいだろっ! し、しかもおまえ全裸だし!」
真雪は遠慮なく呆れ顔をした。「当たり前だよ。服着たままシャワーなんて浴びられないじゃない。それにあたしのこの姿、さっきベッドで見たでしょ?」真雪はくすくすと笑った。「素敵。ケンジおじのそのシャイさ加減、あたし大好き。昔からそうだよね」
「からかうんじゃないっ」
そのバスルームは深い青色で内装が統一されていた。丸い、大きなジェットバス付きジャグジーが、全面ガラス張りの窓の近くに設置されていた。その部屋は5階にあったので、下を流れる川も、遠くの街も一望できた。街の灯がまるで小さな宝石をばらまいたようにきらめいていた。
真雪とケンジは揃ってバスタブにたっぷりと張られた湯に浸かっていた。
「素敵な眺めだね」
「そうだな」
「あの夜は、終わった後シャワー浴びたんだけど、バスルームがどんなだったか、あたし覚えてないんだ」
「そうか……。その時はやつも一緒だったのか?」
「ううん。もうベッドでさっさと眠ってた」
「そんなやつか……」
「あたし、シャワーで、中に出されたモノを、必死で洗い流したんだよ、その時」
「そうか……」
「身体も、何度も石けんで洗った」
「シャワーの後、また板東は求めてきたんじゃないのか? おまえを」
「ううん。あの人朝まで起きなかった。あたし、ベッドの横のソファでローブを着て、あいつに背を向けて眠った。身体に触れられるのがいやだったから、ずっとびくびくしてて眠れなかったよ」
「真雪……」ケンジは切なそうな顔をした。
真雪は顔を上げて、不必要に距離を取ったままのケンジに近づき、肌を触れさせた。ケンジは戸惑ったように緊張した面持ちで真雪から目をそらした。
「ケンジおじってさ、高校生の時うちのママといっしょにお風呂、入ったことあるの?」
「いや、さすがに両親がいる時にそれはしないだろ。でも一度だけあるぞ」
「そうなの?」
「両親が一泊旅行でいなかった時にな」
「どうだった?」真雪は面白そうにケンジの身体に腕を回して言った。
ケンジは赤くなって身体をこわばらせた。「あ、あんまりくっつくなよ。恥ずかしいだろ」
「当時もそんなやって恥ずかしがったの? ケンジおじ」
「マユが身体を洗ってるのをずっと首まで浸かって見てた。それから、風呂の中で……その、つ、繋がった」
「えー? 中でやっちゃったの?」真雪は思わず腕を解いた。
「で、でもな、もう一触即発状態だった俺は、マユを置いて一人でイっちまったんだ」
ケンジは照れたように頭を掻いた。
「高校生だしね」真雪は微笑み、ケンジの両頬を両手でそっと包み込んだ。「再現してみる? あたしで」
「じょ、冗談やめろよ!」ケンジは慌てて大声を出した。
真雪は笑った。
「さ、先に身体、洗うから」ケンジは焦った様子でそう言うと、股間を必死で押さえながらバスタブを出た。