始まる痴態と叔父の意地-1
第五ノ章【始まる痴態と叔父の意地】
月明かりが差し込む広い道場の真ん中で、1人の男が身じろぎもしないまま、神棚に向かって結跏趺坐の姿勢を保っていた。
しかし、その見事な座禅の姿勢は長くは続かなかった。
「ふうぅ…、我未熟なり、雑念を払しょくに至らずや…」
男は長い息を吐くと、がっくりと頭を垂れてポツリとつぶやいた。
無念そうにつぶやいたのは、この道場の主、亀起瓶之真(かめおきびんのしん)。当年とって四十の中年男だ。
亀起家は「夢精直出流居合」の宗家で、この地に道場を構えてから瓶之真で5代目にあたる。
瓶之真は若い頃に全国行脚の武者修行に出たことにより、居合のみならず『自擦り一刀流』の流れを汲む、より実戦的な『真自擦り一刀流白濁派』を修得した免許者でもあった。
一時期は隆盛を誇っていた亀起道場だったが、武士の手習いが武から文へと変わり、さらには享保の不景気が祟った事によって、ここ数年、習いの武士の数もめっきり少なくなっていた。
3年前からは住み込みの門弟も居ない有様で、賄いをする者も今では近所からの通いに頼っていた。よって、今の刻限は、道場とそれに隣接する母屋には瓶之真しか居ない。
極貧には慣れている。それに元々そんなに贅沢をするつもりもない。しかし、金子のままならない今の境遇に、瓶之真の口からため息は出るばかりだった。
何故なら、金子が無いと大好きな吉原へ通えないからだ。
親譲りの精力絶倫は毎晩女を抱きたくて仕方が無い。
中年を過ぎても日に数度と求め続けていた妻は「このままでは体が保ちませぬ。お暇をいただきます」と書き置きを残して実家に帰って久しい。
性欲を持て余した瓶之真が、妻の実家近くに様子を探りに行くと、それを察知した妻は危険回避のために、尼寺に入って頭を剃った。
この件以降、がっくりと気落ちした瓶之真の元からさらに門弟が去っていった。
この夜も寝間でシコシコと3回も抜いたのだが、ムラムラは全く納まらなかった。そこで煩悩を振り払うために道場で座禅を組んでみたが、結局妄想が膨らんでしまうばかりだった。
垂れた頭の下には、バンバンに膨らむモノが袴を押し上げていた。
「ふうぅ…」
二度目のため息を吐いた時に、通りの外で微かにそれが聞こえた。
『あああん』
「ぬぬっ。こっ、これは、猫の盛りの声ではないか」
鬱としていた瓶之真の顔が、ぱあっと明るくなった。
『あああんあああん』
「おうおう、猫どもめ、何と激しい盛りの声じゃ。これは良い菜になるぞ」
破廉恥な動画も淫らな画像も無いこの時代、人の想像力は計り知れなかった。瓶之真は例え猫の鳴き声と言えども、それを淫靡な妄想へと進化させる事が出来た。
瓶之介は道場の真ん中で袴を脱ぐと、猫の鳴き声と思い込んだ淫靡な声に聞き耳を立てながら、自身の分身をシコシコと扱きだした。
『あううん、はあああん』
「ううっ、こ、これは、例えれば歳の頃は十六、見目麗しき未通女の喘ぎ声みたいなあ、ううっ、ううっ、良い菜じゃ、ううっううぅ」