娘の痴態と母の威厳-1
第四ノ章【娘の痴態と母の威厳】
「畜生めっ!見失うたか」
はあはあと荒い息を繰り返しながら、棚唐餅右衛門は悪態をついた。
「しかし、竿之介め!叔父の頭を徳利で殴るとは絶対に許さぬぞ!見つけたら竿之介は叩っ切り、お満は犯して場末の女郎屋に叩き売ってやる」
「餅右衛門様、所詮女連れです。まだそこらに居る筈ですから、直ぐに見つかりますよ」
小者の1人が憤怒する主人を気遣った。
「しかし餅右衛門様、さっきのように見つけた途端に、大きな声を出されたらまた逃げられます。次に見つけたらそろりと近づかねばなりませんぞ」
小者はついついさっき、遥か遠くに竿之介を見つけた途端に、餅右衛門が「竿之介め、見つけたぞ!」と叫んだ事を諌めた。
「わかっておるわ。竿之介を見つけた途端に、憎さの余りについつい声を上げてしもうたわ。次は声を上げずにそろりと近づいて、抜き打ちにバッサリじゃ!」
餅右衛門は腰の太刀の鯉口を切って引き抜くと、竿之介を想定して袈裟切り(相手の左肩から右脇腹)に振り下ろした。
「ぬはははは、待っておれ竿之介め!」
そんな身内の恐ろしげな宣言を知ってか知らずか、2人の子供と幽霊は呑気だった。
「母上、身罷ったふりは止めなされ。もうお満に体裁を繕うても仕方がありませぬよ」
お敏が下界に降りる際に想定した計画は、頭の軽いお満を上手く言いくるめて、母として威厳を保ちながら、高みを経験する内容だった。
だがそんな虫のいい計画は、荒波にもまれた3年間で世慣れてきたお満の前に、あっさりと瓦解した。
しかしそれだけで終わらなかった。聡い竿之介にまで自分の異常な欲望を知られてしまった。思考回路の停止したお敏は、取りあえず死んだふりをして、やり過ごすしかなかった。しかしその死んだふりも、お満の揶揄の言葉で止めざるを得なかった。
『なっ!は、母は体裁など気にしてませぬ。それどころかどんな恥辱にも耐えまする。なれど純朴な男子たる竿之介には知られとうは有りませなんだ。女の業を知った竿之介の性癖が曲がる事が心配なのです』
お敏は何だかんだと言いながら、照れ隠しに竿之介の将来を引きあいに出して言い訳をした。
「ほほほ、何を仰いますやら。今すぐ天界に帰れば別に恥辱に耐える必要も、竿之介に女の業を知られる事もございませぬよ。お帰りなされ。ほほほ」
お満は厳しかった母親に、チョコチョコと仕返しをして楽しんだ。
『うううっ』
このまま未練の残して天界に帰る事の出来ないお敏には、返す言葉が見つからなかった。
「それに竿之介の何処が純朴なのですか。安心なされ母上、姉のお股の匂いを嗅いだり、幼馴染のお尻に指を入れたり、さっきなどは姉のお股を見ながら、自分の肉棒を扱いていたのですぞ。母の業を知る以前より竿之介は立派な変態でございまする」
『そっかあ、そう言われればそうかも…』
納得しかける自分の様子を、ニヤニヤと見守る竿之介を見たお敏子はハッとなった。
「はっ!ダメダメ。母親がそのような事を納得したらダメ。しっかりしなされお敏。今からでも真っ当に育って貰わなければ』
一瞬納得しかけたお敏だったが、子供たちの事を思って自分を鼓舞した。
「ほほほ、竿之介、母上は自分がしっかりして、我らを真っ当に育てるそうですよ」
「何と、母上はむっつり淫乱な癖にそのように言うてまするか」
竿之介も調子に乗ってお満に合わせた。
「無駄だと思いまするけど。ね〜、変態の竿之介♪」
「そうですよね〜、淫乱の姉上♪」
姉弟は確認し合うと、母親の気持ちを知らずに、うひゃうひゃと笑い合った。
「で、生真面目な母上、どうなさりまするか?」
お満はお敏に向かってニヤリと微笑んで聞いた。