娘の痴態と母の威厳-3
「母上、申し訳ございませんでした。竿之介にも言い聞かせますので、少し外してくれませぬか」
お満の言葉に、竿之介は残念そうに肩を落として自分のイチモツを仕舞いかけた。そんな竿之介に対して、お満はお敏に気づかれないように、悪戯っぽく片眼をつぶって微笑んだ。
何だかわからないが、姉の妖しい笑みを見て、竿之介の表情がぱあっと明るくなった。
『母が外さなければなりませぬか』
お敏は怪訝そうな表情を浮かべた。
「あい、竿之介も武士の子です。姉に叱られる姿を母上に見せとうないでしょうから」
『なるほど。確かに竿之介は武士の子です。わかりました。母はそこの通りの角の向こうで待っておりまする。終われば呼んで下され』
お満の言葉に納得したお敏は、フワフワと漂いながら5間(約9m)ほど離れた通りの角に向かった。
お満はお敏の姿が角を曲がった事を確認すると、ニヤリと笑って竿之介に何かを耳打ちをした。お満の話を聞いた竿之介の表情が更に明るくなった。
竿之介に言いたい事を伝えたお満は、通りの向こうで聞き耳を立てているはずのお敏に聞こえるように、芝居がかった口調で言った。
「いいですか〜、竿之介〜、もう、姉の破廉恥なところを見たらいけませぬよお〜」
「プッ、ププ、は〜い〜、姉上〜、竿之介はもう、姉上のお股を見ませぬう〜、」
竿之介は姉の下手糞な演技に噴き出しそうになりながら、自分も通りの向こうに聞こえるように、手を口に添えて大きな声で言った。
「母上〜!話はつき申した〜。こちらへお越し下され〜」
通りの直ぐ角で聞き耳を立てていたお敏だったが、さも遠くでお満の呼ぶ声を聞いかのように、一旦角から5間程遠ざかってから返事した。
「あい、わかりました。今参りまするぞ」
お敏は一拍置くと、威厳を醸しだすように身なりを整えてから、通りの角から姿を現した。
「母上、竿之介も納得しました。我らは姉弟の間では絶対に破廉恥な行為はいたしませぬ。ほれ、竿之介も」
「はい。は、母上、竿之介も姉のお股はもう見ませぬ」
「竿之介、それだけじゃないでしょ」
「はい、姉のお股の匂いも嗅ぎませぬ」
『よう言うた、さすが母の子である。2人ともよう反省なされた。母は嬉しいですぞ』
深夜の静かな江戸町で、声を大にして反省の弁を言う姉弟に、お敏は満足そうにうんうんと頷いた。
『これからも母の言い付けをよく守るが良いぞ。それがそなた達のためでもある』
「あい」
お満が返事をしながら頷いたので、竿之介もそれに倣って頭をぺこりと下げた。
『さてお満、これからどういたしますか?現実問題として、今日のところはそなたらの寝屋を探さないといけませぬな』
「はい、母上。仰る通りでございまする。このままでは寝不足でお満のお肌が衰えまする」
竿之介にはお満の言葉しか聞こえない。しかしその言葉だけでも敏い竿之介には、母子が交わした会話の内容が容易に想像できた。
「ならば姉上、竿之介が休めるところ探しに行きますから、ここで母上と待ってて下され」
「よいのか?でも叔父上に見つかりそうになったら直ぐに逃げるのじゃぞ。足は竿之介の方が早いから落ち着けば大丈夫」
「承知しました」
「母上、それでよろしいですね。それともお満が見て参りましょうか?」
『なりませぬ。そなたはか弱い女子ですぞ。ここは男子たる竿之介に任せなされ』
そうは言っても自分の可愛い息子を窮地に追い込む事をお敏がするはずがない。