ファースト×××-1
あぁ…また、やってしまった…。
あたし、成瀬葉月は机に頭を突っ伏していた。
「なぁに、頭抱えてんの?」
上から声が掛かる。
本宮凌だ。
あんたみたいな人には分かるまい、あたしの気持ち。
こんな事で悩むなんて、絶対無い。
「どしたん?彼氏と何かあった?」
「…別れた。」
ぼそりと呟く。
「はぁ!?またかよ!」
はい、すいません。またです。
「だって〜…。」
上目使いで凌を見る。
「…ったくしょうがねぇな。それにしてもホント何ですぐ別れちゃうん?」
うっ…。
言葉に詰まる。
「なぁ…。」
尚も食い下がるように聞く。
言ってしまおうか…。
「…なんだもん…。」
小さな声で言う。
「何?」
どうやら聞こえなかったらしい。
「シタことないから、怖いんだもん。」
……。
凌は目を大きく見開いてあたしを見た。
はぁ…やっぱり言わない方が良かったかも。
「ってお前、処…。」
「わーっ!わーっ!」
慌てて手で凌の口を塞ぐ。
わかったわかった、とあたしの肩をトントンと叩く。
「…じゃ、何?葉月ってそんなことが理由で今までの彼氏と別れてた訳?」
ちょっと呆れた様に頬杖を付きながら言う。
「そんなこと…って凌にはわかんないよね。男は気持ちいいだけで、最初の痛みも無いんだから。」
それに…と一番気になることを付け足す。
「男は処女ってめんどくさいんでしょ?」
溜め息を吐く。
最初に付き合った人に言われた言葉。
きっと彼は悪気があって言ったわけじゃないだろうけど。
―ハジメテの子って、凄く痛がるし、どうしていいか分からないからかマグロで面倒なんだよね。―
この言葉があたしのトラウマとなって、男の人とそういう雰囲気になると逃げてしまう。
「練習でもできればなぁ…。」
こんなことに練習も何もあったもんじゃないのだが、思わず言いたくもなる。
「…じゃ、俺とスル?」
自分を指さしにっこりと笑った。
「ははっ…面白いねぇ。」
あたしは空笑いした。馬鹿馬鹿しい、と思いながら。
「いや、本気なんだけど?俺、別に初めてとか気にしないし今ならフリーで、口も固いよ?練習に持ってこいじゃね?」
……。
甘い甘い誘惑だった。
誰にも知られず処女を捨てられ、ついでに練習にも付き合ってくれる。
気付いたら、あたしはその提案に乗っていた。
次の日、平日だというのに学校をサボりうちらはホテルにいた。
休日だと知り合いに会いそうだったから。
「部屋、どれにする?」
凌がちらりとこちらを見ながら聞いてくる。
「どこでもいい…。」
緊張の余りまともに顔が見られない。
かちゃ…。
ドアを開ける。
「どうぞ、お姫サマ。」
緊張しているのが伝わったのだろうか。凌が軽く背中を押しながら冗談めいた口調で言う。
どきどきしながら部屋に入る。
…ホテルの中ってこんな風になってたんだ。
きょろきょろ部屋を見渡す。
何か…住めそうなくらい物が揃ってるし広い。
不意に視界にベッドが入る。
大きな、2人で横になっても全然余裕がありそうな…。
「何?ベッドに目がいってるけど。もうソノ気?」
背後から抱き締められ、体がびくんっと弾む。
「…っなわけないでしょ!」
絡まった腕を解きながら言う。
すると凌はくっくっ…と笑いながら
「じょ〜だんだよ。葉月は少し部屋の見学でもしてなよ。俺、シャワー浴びてくるから。」
そう告げてさっさとシャワーを浴びに行ってしまった。