崩れていく関係-1
◇
「……くるみちゃん、いい?」
ふと我に返れば、目の前にススムの無駄に整った顔。
ツ、と視線を下に下げれば、復活を見せたペニスが隆々といきり立っていた。
ああ、頑張って復活させたんだ。
陽介のことをぼんやり考えていたあたしは、我に返ったみたいに周りを見回した。
安さが売りだけの、狭くて古いラブホテル。
セックスするためだけの空間。
……あたし、なんでここにいるんだろう。
出会ったばかりの男に股を開いてアンアン喘いで。
どうせ、これが終われば激しい後悔にとらわれるってわかっているのに。
自分の気持ちに蓋をして、いい女ぶった結果が……。
瞼をギュッと瞑ればこないだの光景が甦る。
恵ちゃんとしっかり手を繋いで、楽しそうに街を歩いていた陽介の楽しそうな横顔が頭から離れない。
お互い恋愛感情を持たない割り切った関係でいようと言い出したのはあたしなのに、悔しさと後悔だけがただただ波のように押し寄せてくる。
「くるみちゃん……」
そんなあたしの想いなんて知らないススムは、あたしの両肩を掴むとゆっくりと傾けた顔を近付けてくる。
多分このまま身を委ねれば、ススムはあたしの頭の中を真っ白にするくらい気持ちよくしてくれるかも知れない。
でも、いくら身体が気持ちよくなれても、コイツは陽介じゃないんだ。
途端に目の奥からじわりと熱いものが込み上げてきた。
そんなあたしに気付かないススムは、チュッとあたしの唇に吸い付いてから、ゆっくりベッドに押し倒してきた。
壊れ物を扱うように、優しいキスを何度も何度もあちこちに注いで、あたしの身体を再び昂らせようとするススム。
さっきまでは間抜け過ぎて仕方なかったけど、やっぱりコイツは女慣れしてる。
でも、冷めてしまった身体は、もう反応しなかった。
――この人は、陽介じゃない。
気づいたらあたしは、ススムの身体を再び押し退けて、跳ねるようにフカフカのベッドから降り立った。