崩れていく関係-9
「……本当に人の気持ちわかんねえんだな。建前と本音ってもんがあるだろ? 男と遊ぶって言われて気分いいわけねえじゃん」
ハッとバカにしたみたいに小さく笑うスグル。
そこには、あたしを好きだった頃の優しいスグルはいなくて、ただただあたしに憎悪の炎を燃やしている男の姿があった。
「……だ、だって、あたし、本当に何も疚しいことしてない……」
語尾が小さくなるのは、スグルが怖いせいか、自分に自信がないせいか。
身体に疚しいことはしてなくても、心は?
自分に問いかけていく内に、頭の中がグシャグシャになって、もうパンク寸前のとこまで来た。
「疚しいことがなくても、そいつの存在が大きくなっていたのは事実だろ? だからオレと会えなくても平気だったんだよ」
「そんなことない……! あたし、スグルが一番大事……」
「じゃあ、オレの為にそいつを切れるか?」
大事だと言いかけたあたしの言葉なんて聞きたくないと言わんばかりに、スグルはそう畳み掛けてきた。
陽介を、切る……?
頭が真っ白になって動けなくなる。
スグルと陽介を秤にかけたことなんてない。
友達と彼氏なんて比較の対象じゃないから、答えられるわけもなく、俯いたまま、下唇を噛む。
でも、自分でも本当はわかっていた。
今さら陽介と切れるのはイヤだったから、あたしはすぐに答えられなかったのだ。
それほど、あたしの中で陽介の存在は大きくなりすぎていた。
「わかるよ、くるみの気持ち。オレも同じだから」
罵倒を覚悟していたのに、スグルから出た言葉に俯いたまま目を見開いた。
思いの外、柔かいスグルの語調に顔を上げれば、彼はなぜか、ほんの少しバツが悪そうに頬を人差し指で掻いていた。
オレも同じ……?
「オレも友達だと思ってたカズネを、いつの間にか好きになってたからな」
静かにそう話し始めたスグルは、言葉を選んでいるのか、時折視線を天井に向けては、ゆっくりとあたしを見た。