崩れていく関係-8
「くるみには言われたくない」
舌打ち混じりに、スグルは吐き捨てるようにそう言った。
「は?」
スグルの態度に一瞬怯んだものの、すぐに我に返ったあたしは再びカッと頭に血が上る。
あたしは浮気なんてしてないのに、二股かけてたスグルにどうしてそんな逆ギレみたいな態度を取られなければいけないのだろうか。
スグルは、はーっと深い深いため息をついてから、あたしの顔を見た。
「確かに二股かけてたオレが全面的に悪い。でも、オレだってずっと悩んでいたんだ」
あたしを見つめるスグルの顔は、どことなく蔑んだような冷たい顔で、以前のような優しいスグルはもうどこにもいなかった。
「それ……どういう意味……」
「……オレが悩んでいたの、全く気付かなかったんだな」
フッと笑ってから、スグルはあたしに哀れんだような視線を向ける。
そして、スグルはポツポツと自分がカズネに気持ちが向き始めた経緯を包み隠さず話し始めた。
きっかけは、あたしと陽介が友達になったことから始まる。
久しぶりに友達が出来た嬉しさ、男友達と同等に扱ってくれた陽介の接し方が居心地よくて、次第に彼と会う回数が増えていった。
一方、スグルは部署の配置換えがあり、業務も変わったことにより、ますます忙しくなった。
一緒に過ごす時間が減ったことを申し訳なく思っているスグル。
でも、元々社会人と大学生のあたし達は、四六時中一緒にいる間柄でもなかったし、何よりスグルにワガママを言って困らせたくなかったから、「友達ができたから平気だよ」と言ったんだ。
相手が男だと知ったスグルは、驚いて目を丸くしていたけど、今までスグルとの世界しかなかったあたしが新しい交遊関係を作ったことに、一緒になって喜んでくれた。
「あたしに友達ができてよかったって、言ってたじゃない……」
怒り心頭だった頭の中も、この短い時間の間にたくさんの思い出が勝手に雪崩れ込んできて悲しみに変える。
堪えようとしても、涙はどんどん溢れてあたしのスカートにシミを作る。
でも、スグルはもうあたしの涙を見ても動かなかった。
以前のスグルなら、あたしがテレビを見て泣いてるだけで慌てて慰めてくれるくらい優しかったのに。
もう、この優しさは、あたしじゃない人に向けられていたなんて。