崩れていく関係-5
上げた右膝は見事にススムの股間にクリーンヒット。
膝先に当たった肉の感触が思ったよりも柔らかくて、ゾクリと鳥肌が立った。
「あがっ……」
ススムは唇の端から唾液を少し垂らして、そのまま床に崩れ落ちた。
男の人が急所を攻撃されたときの痛みは、女のあたしには全く想像がつかない。
踞ったまま動かなくなったその姿を見ると、ちょっとやり過ぎたかなって思ってしまう。
でも、簡単にカノジョと別れてあたしと付き合うと言ったススムがムカついたのは事実。
そういう台詞は、あんたじゃなくてアイツの口から聞きたかったの。
カノジョよりもあたしを選んで欲しかったのはあんたじゃなくて陽介なの。
それは絶対有り得ないことなんだけど……。
相変わらず踞ったままのススムを一瞥してから、素早く服を着ると、あたしはバッグから財布を取り出して5000円札をテーブルの上にそっと置いた。
休憩だけだから5000円あれば足りるでしょ。
さっきまでは割り勘を渋っていたけど、今は一刻も早くここを出たい。
そしてあたしは、ススムには一言も声を掛けることなく、薄暗い部屋のドアをガチャリと開けた。
一人ラブホを飛び出せば、オレンジ色の空が広がっていて、薄暗い部屋に慣れていた目がじわりと痛くなって涙が溢れてきそうになる。
思わず近くの電柱にもたれ掛かったあたしは、そのままズズズと、アスファルトにペタリと座り込んだ。
自分のやっていることに吐き気が込み上げてくる。
陽介が相手だったら、平気だったのに。
例えカノジョがいても、秘密を共有する関係がなんだか嬉しくて、セカンドでも幸せだったのに。
なんで、恵ちゃんのために、あたしをバッサリ切ったの?
バッグからスマホを取り出して、陽介の番号を表示させる。
恵ちゃんのスマホから勝手に盗み見た陽介の連絡先。
こうでもしないと陽介との接点はもうなかったなんて。
見慣れない数字の羅列を映し出した画面に、ポツリと涙が落ちた。
結局、セフレはどこまで行ってもセフレなんだ。
都合が悪くなるとバッサリ切られるのなら、道を踏み外さなきゃよかった。
――ただの友達でいればよかった。