お家断絶の裏で狙われる女体-1
第壱ノ章【お家断絶の裏で狙われる女体】
世に合戦も無いまま百年の時を過ぎれば、武士も本来の役割を果たすことは無くなった。
武家社会に官僚化が進み、形式ばかりの儀式を重んじられた。
『勇ある者』より『聡き者』が日の目を見るこの時代、人心は利に走り、官僚となった者達は私腹を肥やすために躍起になった。
二万石に満たない小大名の亀立藩も例外ではない。それが露見したのは藩主裏筋実正が参勤交代で江戸に上府して直ぐのことだった。
江戸屋敷詰めの特産物差配方の荒利取之助は、国許の名産の差配を一手に引き受けるのを幸いに、私腹を肥やし続けて数年の時を経た。
慢心した荒利は更なる野望を持った。藩主裏筋実正を排し、娘を側室に入れている分家の裏筋道実を藩主に仕立てようと画策した。どこにでもあるお家騒動だ。
しかし、それはこの物語の本質では無いのでサラリと流す。端的に言えばこのお家騒動は事無きを得た。事が露見した荒利は蓄財を手にして逃亡した。
直ぐに『荒利討つべし』の上意が下った。
その追手に指名されたのが、荒利の下で特産物差配所に詰めていた小股棒太郎。お満と竿之介姉弟の父親だった。
子供たちにとって不幸だったのは、小股棒太郎は能無しを絵に描いたような男だった。
酒と女にだらしなく、その癖自分を『聡き者』と勘違いする『愚かな者』だった。荒利から貰っていた些少の金員で女を囲って大物を気取っていた。気苦労の絶えない妻のお敏(おさと)は、元々体が弱かった事が災いして3年前に他界していた。
聡き者なら、荒利との関係を隠し、直ぐに上意討ちをしたであろう。しかし、愚かな棒太郎は荒利に義理立てて、囲っていた女と逃亡してしまったのだ。
『士道不覚悟』
戦が無くなって久しいと言えども、武士に有るまじき行為をすればお咎めがある。ましてや藩主の上意を無視した罰は重かった。小股家は断絶を言い渡され、住み慣れた江戸屋敷を出されたお満と竿之介の姉弟は、取りあえずお敏の姉の嫁ぎ先である棚唐餅右衛門の家に身を寄せた。
ここでも2人の不幸は続いた。
「叔父上、このような刻限にお呼びとは如何なされたのです?」
【暁九つ(深夜0時)お満一人で離れに来られたし】
夕食後に叔父の棚唐餅右衛門からこの走り書きを手渡されたお満が、離れの襖を引きながら部屋の中を窺った。
「来たか。そんなところに立ってないで早う中に入れ」
餅右衛門の言葉に、お満は思い切って離れの中に入って驚いた。
「お、叔父上、こ、これは…」
離れの中央には床が敷かれており、餅右衛門はその枕元をで酒をちびちびと飲んでいたのだ。
「まあ、そんなところに佇んでおらず、横に来て酌でもしないか」
「は、はあ…」
お満は怪訝そうな顔をしながらも、餅右衛門の言いつけどおりに横に座ると、徳利を手に持ち叔父の猪口に酒を注ぐために肩を寄せた。
餅右衛門はすかさずお満の手を取ると自分の方に引き寄せた。
「な、何をなさいます」
慌てたお満は、目を見開いて餅右衛門の腕の中で身を硬くしした。
「『何を』と申すか。お前たちの養い料を頂戴するだけよ。おうおう、こんなに大きゅうなりおって、さぞや食が多かろうなあ。うりうり、これは養い料をたっぷりいただかんと割にあわんのう」
叔父はお満の胸元から手を入れると、着物の中に隠された16歳にしては豊満な乳房を弄った。