序章-1
時代小説
【秘剣露時雨秘裂返しのお満】
【序章】
―あぁ…ああぁ…そ…そうよ…いい…いいのぉ…あっ…ああん…は…母上…こ…これが…女の…女の…悦び…あっ…あっ…きっ…気持ちいいよう…ああぁ―
蜜を滴らせた自らの秘裂に指を這わせ、若い娘が傍に居る母親に呼び掛けながら身悶えしていた。
しかし、娘が喘ぎに紛れて呼び掛けた母親の姿は、そこには見えなかった…
遡ること数日。
「あ、姉上、大変です!、ち、父上が逐電いたしました!」
前髪の残った幼き弟が、父親が書き残した手紙を持つ手を震わせながら叫んだ。
「さ、竿之介(さおのすけ)、それは真か…」
姉上と呼ばれた美貌の少女が、繕い物の手を止めて目を見開いた。
「あ、姉上、我らはどうなるのでしょうか?」
心配顔の竿之介の問いに、即座に安心させる言葉を姉は持ち合わせなかった。何故なら姉のお満(おみつ)自身がそれを聞きたかったからだ。
時は享保十余年。西暦で記せば1720年代のことか。
幕府開闢(かいびゃく)より百二十余年の時が過ぎ、徳川の治世は八代を数えていた。
大坂夏の陣は遥か遠く、武士が剣を以って立身の叶わぬこの時代、1人の少女が自身の運命を切り開かんとして、そのか弱き手に剣を持つこととなる。
この物語は歴史の陰に隠れた1人の少女が、運命に翻弄さればがらも、秘剣を操り家の再興を夢見る物語である。