幸せな夫婦-1
K市すずかけ町。この地方も例年よりやや遅く、昨日梅雨明けしたという報道があったばかり。
共に4歳になる双子の兄妹健吾と真唯を寝かしつけた後、二人の父親龍は自分たち夫婦の寝室に戻り、ドアを開けて少し眠そうな顔をドレッサーの前にいた愛妻に向けた。
真雪は振り向いて微笑んだ。
「ありがとう、龍。子どもたち、おとなしく寝てくれた?」
「健吾はあっという間だったね」
彼はあくびをかみ殺した。
龍はベッドの端に腰を下ろして、スウェットの上を脱ぎ始めた。
真雪も椅子を立って、龍と並んでベッドに座った。龍は真雪の身体に腕を回して抱き寄せ、裸になった上半身に押し付けた。「でも真唯はさ、何度も絵本を繰り返し読め、ってなかなかしつこかったよ」
「真唯のお気に入りだもんね、『ぐ○と●らのえんそく』」
「いっしょに体操する勢いで大興奮さ」龍は苦笑いをした。
「ごくろうさま」真雪は微笑んで龍にキスをした。
「ようやく真唯の目がとろんとしてきたと思ったら、俺も眠くなっちゃって」
「気持ちいいよね、子どもたちと一緒にベッドにいると」
「うん。もうこっちまで幸せな気持ちになるよ。二人の寝顔は最高の癒やしだね」
「で、いつものように仲良く手つないで寝てるの?」
「俺が部屋を出る時には二人で抱き合ってた」
「ほんとに?」
「そのまま禁断の関係にならなきゃいいけどね、誰かと誰かみたいにさ」
龍は笑った。
――海棠 龍(26)と海棠真雪(30)は元々いとこ同士。今から5年前の2月に二人は結婚し、その年の12月に健吾と真唯が生まれた。
龍は高校卒業後地元の新聞社に入社し、得意のカメラワークで、取材の最前線を駆け回っていた。一方真雪は動物飼育のノウハウを学ぶ専門学校を出て、現在は町のペットショップを切り盛りしている。
龍の父親、海棠ケンジ(50)と真雪の母親シンプソン・マユミ(50)も双子の兄妹。
この二人、実は今から30数年前、高二の時に兄妹でありながら一線を越えてしまい、それから約二年半の間、お互いの身体を求め、癒し合う禁断の関係を続けた。しかし、ケンジが大学に進学したのを機に、二人は泣く泣く別れ、マユミはケンジの親友だったケネスと結婚した。ケンジの方は、大学の二年先輩のミカと卒業後結婚し、彼が23歳の時に息子の龍が生まれた。
マユミとケネス夫婦にも男女の双子が授けられた。マユミが20歳の時に産んだ、健太郎、真雪と名づけられたその兄妹は、世にも珍しい『異父双生児』である。つまり、マユミが同時に排卵した二つの卵子に、それぞれ違う男性の精子が交わって、結果父親が違う双子が生まれたのだ。
双子のうち、妹の真雪はマユミとケネス夫婦の子、しかし兄の健太郎の方は、実はケンジの血を引く子なのだった。
「君とケン兄(健太郎)もずっといっしょに一つのベッドで寝てたんでしょ?」
「小学校の頃までね。やっぱり手を繋ぎ合って寝てたんだよ」
「妙な気にならなかった? って、そんな気になるのは男のケン兄の方かな」
「ケン兄は純情で奥手だったからね」
「触られたり抱きつかれたりしなかった?」
「しなかったよ。覚えてる限りではね。ケン兄はいつもあたしより先にすぐ寝入ってたし。うちの健吾みたいにね」真雪は笑った。「って、龍、あなたもう何も着てない」
「えへへ……」龍は照れたように頭を掻いた。「真雪も脱いでよ」
「もう、龍ったら……。眠くなってたんじゃないの?」
真雪も顔を赤らめて着ていたパジャマを脱ぎ始めた。
「さっきのキスで目が覚めた」
龍は、下着姿になった真雪をそっとキングサイズのベッドに横たえ、覆い被さって唇を彼女のそれに押し当てた。
「んっ……」真雪は甘い呻き声を上げた。
長い時間をかけ、龍と真雪はお互いの唇や舌を味わい続けた。その行為を続けながら龍は真雪の背中に手を回し、一度そっと抱きしめた後、ブラのホックを外してそのまま彼女の腕から抜いた。そして露わになった大きくて柔らかい二つの膨らみを両手で円を描くように撫で、さすった。
二人の濃厚なキスはずっと続いていた。いつしか合わせられた口の隙間から、二人の唾液が幾筋も真雪の頬を伝い、薄いピンクのピローケースに吸い込まれていった。
龍が口を放し、真雪の右頬を優しく撫でながら微笑んだ。
「チェリーの匂いがする」
「龍も」真雪もにっこり笑った。「食事の時、子どもたちといっしょにいっぱい食べてたからね」
「チェリーを食べると思い出すよ、強烈に」
「何を?」
「君との初めての夜」
「そうか、そうだね。あたしたちの初体験、丁度今頃だったね」
「えっと……、あれは俺が中二の時だったから、今から13年前!」
「もうそんなになるんだね」真雪は嬉しそうに言った。
「お互いに摘み立てのチェリーを食べさせ合った夜」
真雪は不意にぎゅっと龍の身体を抱きしめた。「龍ー」
「ど、どうしたの? 真雪」
「龍、好き。大好きだよ……」真雪は龍の胸に顔を埋めてくぐもった声で言った。
「俺も。大好きだ、真雪」
「抱いて、龍。もっと抱いて」
龍は真雪の背中に腕を回してきゅうっと抱きしめた。真雪はうっとりしたように大きなため息をついて、彼の身体を抱き返した。
龍の温かな手が、真雪の背中と腰を行き来した。その度に真雪は小さな喘ぎ声を上げながら、身体を震わせた。
「龍……龍……」
「真雪……」