迷いの人魚 ☆-1
人の噂も七十五日・・・ 人の口に戸は立てられない・・・
最悪の状況の中、少女はその“処女”を守りながら生還を果たす。
しかし魅惑の美少女、太田加奈を待っていたのは“風説”の嵐であった。
留吉に拘束され、口淫を強いられ続けた一時間後。
プールに隣接する女子更衣室より出て来る男女を目撃していた者が居た。
その男女は言わずもがな、藤岡留吉と太田加奈の二人に相違無かった。
噂は無責任にひとり歩きを始め拡散して行く。
方向性こそ真逆であったが、元々注目度の高い二人である。
数週間後、藤岡留吉は適当な理由と共にその職を解かれる。
今回の件と累積されてきた悪行に、街の有力者さえ庇いきれなかったのである。
しかし義務教育中の太田加奈の処遇は、おいそれとは行かずその将来性も含め扱いは難航を極めた。
もっとも加奈自身事件の翌日より精神バランスを崩し、学校に姿を現す事は無く時は過ぎ去っていった。
しかしいつまでも、登校拒否と言う訳にも行かず、半年後に娘の将来を案じた両親は苦渋の決断を下すに至る。
それは加奈を親類の家に養女と言う形で出し姓を変え、更には名すら※裁判所に届け出適切な手続きを踏まえ変えると言った念の入り様であった。
時間こそかかったが両親の申し立ては認められ、数ヶ月後太田加奈は新しい姓と名を手に入れる。
そして生まれ育った街と親元を離れ、新しく別の人間として生きて行く路を選択する。
太田加奈と呼ばれた美しい少女の新しい姓名は、磯崎香(いそざきかおり)と言った。
磯崎香は後に、石崎佑香の弟敬人と出逢い恋に落ちる。
その恋に落ちた相手石崎敬人には、未婚の身でありながらすでに恵利子と言う赤子が居た。
恵利子は出産後急逝した敬人の姉佑香がこの世に残した娘であった。
当時まだ若い弟の敬人が何故、姉の残した遺児を引き取り養女と言う形を取ったかは謎に包まれている。
しかし結果として、恵利子は生後僅かな日数で母親の旧姓になる。
石崎敬人と磯崎香(旧姓・太田加奈)が出逢った事は偶然であったが、当然敬人は香が加奈である事を認識する事となる。
香も必要以上の事は語らなかったが、敬人はそれを含めて気持ちの揺らぎは無かった。
その敬人の気持ちに応えるかの様に、香は敬人と共に同級生だった石崎佑香の娘である恵利子を自分の娘として受け止め二人を磯崎姓に向かい入れる。
幾人もの人間が紆余曲折を経て、新しい姓名を手に入れ新しい人生を歩み始めようとしていた。
太田加奈は磯崎香として、石崎敬人・石崎恵利子は磯崎敬人・磯崎恵利子として……
それから時は流れ、磯崎夫妻の元に双子の娘汐莉と若菜が生を受ける。
長女である恵利子はその時5歳に成長していた。
当然であったが磯崎家において、その複雑な家族関係は娘たちに伏せられたまま成長して行く事になる。
本来であれば敬人の血を直接受け継いでいないはずの恵利子と、汐莉と若菜が成長につれ似て行く事は不合理ではあった。
しかし香はさほど違和感無くそれを受け止め、三人の娘たちを分け隔て無く育てその成長を見持っていく。
その教育方針は厳しい中に優しさを秘め、娘たちはその容姿同様内面的にも美しく育っていく。
しかし美しく育った娘恵利子、そして汐莉はほぼ同じタイミングで大人の男たちの欲望に堕ちて行く事になる。
磯崎恵利子は15歳の時に、連続強姦魔の千章流行の計画的レイプによってその処女華を散らされ蹂躙され続けて行く事になる。
磯崎汐莉は11歳の時に、香の歳の離れた義弟○○によって穢され侵食されはじめて行く事になる。
千章流行は旧姓太田加奈(現在の磯崎香)の中学生時代の同級生で、互いに面識ある人物であった。
義弟においては、言うまでも無い人間関係である。
香にとって娘たちが自分と面識有る人物たちの手によって、穢されて行く事は耐え難い苦痛であり信じがたい呪いとも思えた。
しかし本当の“呪い”は少し遅れて、若菜の身に降りかかる事になる。
その“呪い”の元凶は、香にとっては振り払い忘れ去ったはずの過去。
口にする事さえ躊躇う、藤岡留吉に連なる人間。
自分に羞恥の行為を強いて、その名を奪い穢した人間の血を引く人物。
汚らわしい過去が足音潜めつつ、香の愛娘若菜に迫って行く。
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※正当な事由によって、戸籍の名を変更するには、家庭裁判所の許可が必要です。
正当な事由とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいい、単なる個人的趣味、感情、信仰上の希望等のみでは足りないとされています。