第2章 疑惑-13
「‥刺激を求めてとか、そんな理由だってあるわよ」
「あんたも知ってるでしょ、先輩はそんな人じゃないわ」
あたしは人を見かけで判断したりはしない。誰だって腹の中では、どんな化け物を飼ってるか知れたものじゃない。でも、たった数回インタビューに行っただけだが、新城先輩は瀬里奈の言う通り、裏表のある人には思えなかった。そもそもビデオが撮られたのは、あたしがインタビューに行った頃の可能性が高い。もし後ろめたいことを隠していたら、あんなに明るく笑うことができるだろうか。
やがて瀬里奈は顔を上げた。その思いつめた顔は見てて痛ましいが、何かを決意した顔だった。
「もし、沙羅の言うように学院に売春組織があって、そいつらが先輩の弱みか何かを握って売春を強要しているのなら‥」
一区切りつけて、瀬里奈はあたしの目を見つめる。そこにはいつもの意志の強い輝きが宿っていた。
「‥私は何があってもそいつらを許さない!」
正直ビデオの中の先輩に、何かを強要されていた様子は窺えなかった。でも、何かがおかしい。そう、何か得体の知れない不自然さがあのビデオにはある。それはとても重大なことに思えて仕方がない。もうこれは、あたしにとっても黙って見過ごせるものではなくなっていた。
「じゃあ、あたし達で調べましょう、この件、徹底的に突き止めるわよ」
「いいわ」
「‥私は反対です」
静かな声で異議を唱えたのは紫苑だった。その顔は、瀬里奈に負けず思いつめていた。
「これは私達の手に余ります、もし本当にそんな組織があるなら、スキャンダルどころの騒ぎじゃありません。このビデオを学院に提出し、一刻も早く司法の手に解決を委ねるべきです」
「駄目よ、そんなことしたら先輩が退学になっちゃう!」
「それは自業自得というものです。どんな理由があれ、あんないやらしいビデオに出て売春行為に及ぶなど、許されることじゃありませんわ」
身を乗り出す瀬里奈を制し、あたしは紫苑の隣に座る。なるべく落ち着かせるため、冷静な口調で話しかける。
「聞いて紫苑、今あたしたちは危機的状況なの。あのビデオを学院に渡したても事態は悪化するだけよ」
「‥どういうことですか?」
「学院は何よりスキャンダルを恐れてる。もし紫苑の言った通りにすれば、先輩を退学にさせて事件の揉み消しを図るでしょうね。警察を学内に入れて捜査なんてまずあり得ない、ここはそういう所でしょ」
紫苑は無言のまま顔を強張らせる。鳳学院が大学以上に治外法権なのは、彼女も当然知っている。
「そして先輩が退学になれば、売春組織はその原因を探るわね。例え匿名で提出しても、いずれはあたし達に気づくでしょう」