〈選ばれし美肉達〉-1
「八代さんッ…あ、貴方って人はぁ!!」
最後の銭森姉妹が、檻の中に閉じ込められた。
枷と手錠の違いだけで、麻縄で手足を檻に拘束させられるのは一緒。
あの日の文乃や麻里子と同じ姿勢で、八代や専務に見下ろされていた。
『クククク……美味そうな牝が三匹も並ぶと、なかなかイイ眺めだよなあ』
景子渾身の一撃のダメージは失せてきており、専務の表情にも余裕が戻ってきていた。
もう膝に手を当ててもいないし、肩で息をする必要もない。
辛くも掴んだ勝利と、それに見合う戦利品に、一先ずは満足だった。
『……そうだな。もう“これ以上”の刑事はいないしな』
八代は檻の中で俯せている景子を見下ろしていた。
最初の算段では、景子達の帰宅を狙い、優愛の携帯電話を使って、一人ずつ誘い出すつもりだった。
その目論見は見事に外れ、拳銃を持ったままの景子と対峙する事となってしまった。
優愛の携帯電話が景子からの着信を告げた時、八代が動揺しなかったと言えば嘘になる。
貨物船のタラップを下りて、景子に拳銃を向けられた時は、その動揺を圧し殺す為に努めて冷静を装っていたのだった。
逮捕術の技量が対等であれば、体格と腕力に勝る八代に分があるのは明白。
それでも薄氷を踏む勝利であった事に違いはなく、情けない声をあげて誘い込んだ貨物船内の通路で、景子が手にしていた武器がデッキブラシではなく拳銃だったなら、更に苦戦していたはずだ。
「……八代……貴方、犯罪なんかに手を染めて恥ずかしくないの?……答えろ!!」
狭い檻の中で頭を傾げ、懸命に八代を睨む景子に、八代は答えようとはしなかった。
「麻里子お姉さんも瑠璃子お姉さんも、貴方を信じてたのに……この……この卑怯者!!」
春奈の怒声にも、八代は沈黙を貫く。
まだ先程までの戦闘の興奮が冷めてない二人とは対照的で、怒鳴り声の他に聞こえてくるのは、優愛の啜り泣きと、専務と部下達のせせら笑いだけだ。
『負け犬が吠えてやがるなあ……そういや、この前の〈負け犬〉がどうなってるのか、お前達に見せてやろう……』
優愛の隣には景子が、そしてその隣には春奈が運ばれ、三つの檻は川の字に並べられた。
いくら檻の中で暴れようが、喚き散らそうが構うような部下達ではない。
そして三人の前には大きなモニターと、DVDプレーヤーが運ばれた。