目覚め-1
「真奈美、朝よ! いつまで寝てるの!」
階段の下から、少し怒ったような母親の声が響いた。
夢見心地のまま、殆ど条件反射のように、おもむろに目覚まし時計に手を伸ばす。
(あれから二度寝してしまったみたい……まだ頭がぼーっとしてる……)
ピントが今イチ定まらない目を凝らせて時計を覗き込むと、時刻は午前9時半を指している。
「はあい……」
少し間を置いて、ようやく真奈美はけだるい声で返事をした。
(今は、シャワーが浴びたい……)
鉛のように重い体を引き摺るようにして部屋を出ると、ふらふらと階段を下りてそのまま浴室へと足を運んだ。
「あら真奈美、朝食は?」
キッチンのほうから母親の声が聞こえた。
「うん、後で。なんだか寝汗かいちゃって、気持ち悪いの……」
「いつまでも寝てるからよ。夜更かしは止めなさい」
「はーい……」
真奈美は、浴室の前まで来ると、のろのろと胸元に手を伸ばし、上着のボタンを外そうとした。
しかし指先の感覚が鈍くなっているのか、うまくボタンが外せない。
ふと視線を胸元に移してみると、何やら黒い革のような生地を纏っている事に気付いた。
あれ? いつもの着慣れたパジャマの生地ではない。改めて胸や襟元、袖口を触ってみて、それはパジャマでは無い事を認識した。
そして目線を、眼前の壁に掛かった化粧鏡に移すと、そこには少し汚れてしわや傷の付いた黒いハーフコートを着て、放心状態のような顔をした見知らぬ少女が映っていた。
これ……私? しばらく鏡の中の姿に見入っていたが、ハッと我に返ると、胸元のボタンを外し、前をはだけた。
途端に生暖かい臭気がムワッと立ち上った。コートの下には、一切何もまとっていない、幼く白い柔肌が現れた。
その裸体は、コートの黒に強調され、なおいっそう白く艶めかしく栄えて見えた。
しかし、良く見るとその裸体には無数の掻き傷が、ピンク色のミミズ腫れになって残っている。
――彼女はその傷を見ながら、どうやってつけられたのか、昨夜何があったのか、まだ膜が張ったようにぼんやりとした頭で必死に思い出そうと試みた。
黒いコート、掻き傷、生臭い匂い……そう、浮かんできた光景は、凶暴で乱暴な怪物……上から被さるように襲いかかるケダモノ。
股間にはそそり立つ、大きく膨張した赤黒い肉棒。それを容赦なく振り回し、突き立て、出し入れを繰り返すドーベルマン。
がっちり押さえつけられて為す術もなく嬲り続けられるのは……私?
「そうだ、公園でドーベルマンに……やだ!」
真奈美は嫌悪感で腕や背中に鳥肌が立ち、同時に羞恥心からか頬や胸が火照るのを感じた。
(やだ、やだ、やだ、やだ……)
強いショックで脳が一時的に封印していた記憶が、ちょっとしたきっかけで堰を切ったように洪水となって蘇ってきたのだ。
……まるで獲物に襲いかかる猛獣のように鋭い牙を剥き、涎を飛ばしながら私を押し倒し、馬乗りになって、太い両腕と分厚い胸で締め上げて……
身動きできなくなったところを、股間からそそり立つ熱い凶器で容赦なく何度も何度も……
最初の一撃も容赦無かった…… ミシャッ! 太くて固いバットのような肉塊が押し入り、一瞬にしてバージンを散らされてしまった。
その後も、更に固く大きくなった凶器を突き立てまくって……
「ああ……」
地獄のような拷問の記憶を反芻させられ、真奈美は力なくその場にヘナヘナと蹲ってしまった。
はあ、はあ、はあ、と大きく息を乱した真奈美は、何度か深呼吸を繰り返し、息を整え、心を落ち着かせようとした。
と、その時だった。 グジュッ…… 下腹が違和感でムズムズした。まるで生理の時のようだ。
「やだ、あの犬に出された精液、まだ中に残っているのかしら……?」
ふと気が付くと、股間からは半透明の液体がこぼれ、太腿をツーッと伝っている。
(あっ、やだ! 床に溢れちゃう)
真奈美は、両脚をすぼめながら慌てて立ち上がった。
すると、再び鏡に映った自分の顔と対峙した。
目に隈が出来てやつれたような表情ではあるものの、頬はいくぶん赤く上気し、目が潤んでいる。
取り繕うように無理矢理笑みを作ってみたが、その顔はどこか色気を帯びて、なんだか卑猥に見えた。
浴室に入ると、シャワーを当てながら指先で股間を念入りに洗った。
「はあ、はあ…… あれ? 私、なんだか息が上がって、体が震えて……? 興奮しちゃってる……?」
気が付けば、指が局部を撫でる度に、じんじんと痛痒いような快感が体を走る。
(いけない……これじゃオナニーだわ)
――真奈美は短めにシャワーを浴びただけで、さっさと入浴を切り上げた。
「朝食、パン2枚焼いてね」
「あら、珍しいわね。いつもはダイエットを気にして1枚だけなのに」
母親は少し驚いた様子だった。
「昨日、頑張りすぎたからお腹減ったのかな」
真奈美は食事中も、なんとなく落ち着きを失っていた。
局部がうずうずして、慰めてやらないと我慢できないくらいになっていたのだ。
「ごちそうさま!」
そそくさと食事を済ませると再び二階の自室へ戻って行った。