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その夏
【少年/少女 恋愛小説】

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その夏-2

そう言いながらあたしは手を伸ばしてテレビのリモコンを取ると、電源を入れた。いつもは見ない昼ドラをなにげなく見始める。さっきの質問にアキラがなかなか答えないから。
「・・・・」
抱き合う2人の男女が写る画面から、アキラの方に視線を戻す。アイスクリームはもう殆どないのに、アキラは棒をグルグル舐め続けていた。
「虐める奴がいるならあたしがぶん殴る。マサヨシだって絶対アキラの見方だし」
アキラは小さなころから優しい奴だった。蝉取りで大量の蝉を取ったって、家に帰れば「放してあげよう」っていつもあたしに提案してくる。そういう時あたしは、ちょこっと嫌な気持ちになるけど、アキラの「蝉が可哀想だよ」って力説と、必死な顔に結局は負けてしまうんだ。
そんな優しさが良い所なんだけど、なにをしても怒らないのを良いことにアキラをからかってくる奴は沢山いた。
「いつだってあたしはアキラを守ってきたんだから、何かあるなら相談して欲しいじゃん。教えてくれんのは悲しいよ・・・」
あたしはまたテレビに視線を向ける。お母さんの好きな俳優がでているCMが流れていた。あたしはアニメくらいしか見ないから、有名人の名前なんか知らない。
「・・・・・かなちゃんはやっぱり、」
やっと喋りだしたアキラを見る。アキラはアイスの棒を縁側に置いて、あたしをじっと見ていた。
「・・・マサくんみたいな強い男の子のほうが好きだよね・・・?」
「は?なんでそうなるの?」
「だって最近、マサくんの話ばっかり・・・・」
アキラどうした?それを言ってる理由がよくわかんないよ。
「マサくんのこと好きなんだらぁ?」
「はぁぁ? んなわけないじゃん!なにゆっとるの?」
マサヨシを好きとかどっからその発想が出てくるのかが分からない。マサヨシは良い奴で、確かに強いけど・・・・。
「ぼ、僕はさぁ・・・弱いし、マサくんには敵わんけど・・・・」
アイスの棒を手にとっていじりながら、アキラは途切れ途切れ言う。
「でも、ずっとかなちゃんと一緒にいて・・・ね」
しどろもどろになってる。あたしはアキラが何を言おうとしてるか全く分からない。
「なにが言いたいの? よく分かんないよ」
もじもじしてるアキラにイラッとしたあたしは、ちょっと不機嫌な声で聞く。
「だからね・・・だからぁ・・・」
アキラは余計焦ったみたいで、顔が真っ赤だった。何を思ったのかチラッとテレビ画面を見る。あたしもそれを追って視線を移した。テレビ画面には、なんだかいい雰囲気の俳優と女優が映っていた。あたしは思わずテレビに釘付けになる。2人が今にもキスしそうだったから。顔が近づく、俳優が手を女優の頬に添えた。次の瞬間・・・・唇が


――――――――――――――――――――― チュッ

え・・・・??
あたしの唇に柔らかい感触。
目の前にはアキラの顔。
「な、な、なん・・・・!?」
あたしが口を開くと、アキラの唇は離れた。「なん・・・え?ちょtt・・・」とかなんとか言った気がするけど、よく分からない。思考回路は驚きのためストップって感じ。アキラはというと、自分から行動してきたくせに、あたしと同じくらい驚いたような困ったような顔をしていた。
「あ、あ・・・」
顔を真っ赤にして挙動不審な動きをしながらあたしから遠ざかると、「ご、ごめんね・・・」と一言だけ残して、アキラはうちの庭から走り去った。
「えー・・・・?」
どうしていいか分からず、放心。



その夏、あたしとアキラは確かに友達で、夏の終わりにそんなことが起こるなんて思ってもいなかった。
突然の出来事への衝撃と、ファーストキス消失のための寂しさ、怒り、たくさんのものが渦巻くけど、あたしは分かってるから。また明日になれば、アキラはアイスをもってうちに遊びにくるよね。そのときなにを話すかなんて分からないけど、2時にいつもの縁側でごろごろしているあたしをみて、微笑んでくれることは想像できる。

もう既に涼しい風の吹く夜、そう完結したあたしは、柔らかいタオルケットに身を包んで眠りについた。


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