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その夏
【少年/少女 恋愛小説】

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その夏-1

ギラギラ光る太陽。

さわさわ頬を撫でる風。

蝉の鳴き声。

その夏はいつもと同じで、でもどこか違って、あたしにとってはたった一度の9歳の夏休み。その夏、あたしたちは”友達”だった。

夏休みも残り1週間になったいつもの昼下がり。うだるような暑さの中あたしは縁側に寝転んでいた。
もうすぐ、いつものようにアキラが遊びに来る。毎年の夏休み、毎日午後2時過ぎに決まってあたしの家に来るアキラは、あたしの幼馴染だ。アキラの家はあたしの家から歩いて10秒。保育園、小学校を共にしてきた。もちろん学校の登下校も一緒にしている。あたしは通学班の班長で、アキラは副班長なんだから、当然といえば当然のこと。小さなころからいつも一緒にいた。アキラは大事な友達だ。
「かーなーちゃん。あーそーぼっ」
2時10分になったころ、昨日と同じようにそう叫ぶアキラの声。あたしは「縁側ー!」ってこれまた昨日のように叫んだ。
「今日のアイスはー?」
ごろんと寝返りを打って、息を弾ませて縁側に入ってきたアキラのほうを見る。アキラがうちにアイスをもって遊びに来るのは、決まりみたいなものだった。
「えっとね・・・今日はコレ持ってきたよ」
ゴソゴソと白いスーパーの袋を探って、アキラはアイスを取り出す。それは2つのアイスがくっついてて、まんなかでパキッと折るタイプのアイスだった。
「やったっ。あたしの好きなやつじゃん。しかもチョコ味ーw」
「だらぁ。僕もこれ好き」
アキラがアイスをこちらに差し出したので、あたしは勢いよく起き上がりそれを受け取ると、パキッと音を立てて割った。このタイプのアイスを割るのはあたしの係なのも、2人の間では暗黙の了解だった。
「今日はなにする?」
あたしの横に腰掛けながらアキラは聞く。
「うーん。もうほとんどやりたいことやっちゃったしねぇ。マリオカートでしょ、花火、蝉取り、プールも行ったし・・・・」
「あーあ、もう夏休みも終わりなんだ」
「だねぇ」
夏休みが終わる一週間前はいつもこんな感じだ。やりたいことを全てやった満足感と、でも夏の終わりを目の当たりにして、どこか満ち足りないような物悲しさ。なんだか胸がきゅうっと一杯になる感じがして、あたしはそれがすごく苦手だった。
「でも新学期はちょっと楽しみじゃん?」
しばらく理由のわからない寂寥感に打ちひしがれた後、あたしは明るい声を作ってそう言った。
「ほんと?僕はそうでもないけどな」
「えー?なんで?みんなに会うの楽しみじゃない?」
あたしは夏休みは大好きだけど、別に学校が嫌いって言うわけではない。、寧ろ学校は好きな部類に入ると思う。友達に会えるし、勉強だって嫌いじゃない。でもアキラは最近、学校があんまり好きじゃないようだった。クラスの子の話になると、ちょっと悲しそうな顔をする。
「う、ん・・・」
「アキラはクラスのみんな嫌い?」
夏休み前はそんな印象全くなかった。昼休みには楽しくみんなとドッヂボールをしていたし、放課後は自転車でマサヨシと遊びに行っていた。マサヨシは明るくて面白い、クラスのリーダー的な存在の男子だ。あたしもよく話すし、ドッヂボールだって一緒にやる。そんなマサヨシがアキラを虐めたりするはずなんてないと思うんだけど・・・。
「嫌いってわけじゃないよ」
アイスクリームと舌で遊びながら、アキラは呟いた。アイスを噛んで食べる癖があるあたしのアイスは、もうすでに跡形もなかった。
「マサヨシが嫌なことするとか・・・?」
「ううんっ。マサくんは優しいよ。面白いし」
「だよね。マサヨシはいい奴だもん。じゃぁなにが嫌なのさ?」


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