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あしあと
【家族 その他小説】

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あしあと-9

 数時間ほど眠ると、医師が大勢で回診にやって来た。
 中には昨日の二人の医師と、さらに年配の医師が数人混じっている。
 ぼうっと横たわる俺に、ぶっきらぼうな医師がずかずかと近づき話しかける。

「具合は、どう?」
「ええと……とりあえず痛みは、あまり無いです。体の方は、感覚が麻痺しているというか」
「そう。あのね、昨日の手術なんだけど、正直かなり大変だったんですよ」
「はぁ、そうなんですか」

 俺は麻酔をかけられていたので、そんなことは知る由もない。

「六時間かかった。普通は一時間弱で終わるんだけどね。やはり肝臓への癒着の部分が厄介でしてね」
「へぇ」
「肝臓の血管から出血があってね、予想はしてたんだけど、時間がかかったね。それでも、手術は無事に終わりましたから。退院までは……二週間弱程度と考えとってください」
「わかりました。お手数おかけしました」
「いや。あとね、大変だろうけど、少し歩いて貰わんといかん。寝たままだとね、腸閉塞を起こしたり、よくないんでね。後で看護師をやりますから」
「は? はぁ……もう、歩くんですか?」
「そう。ゆっくりとでいいから」

 言うだけ言うと、その医師は看護師に指示を出し始めた。
 若い医師の方は俺の腹部の傷の具合と、管から出た廃液の状況を確認しているようだ。
 特に問題は無かったのか、医師の集団は去っていき、集中治療室のスペースに俺だけ残された。
 まだ術後数時間のはずだが、もう歩くのだという。大丈夫なのかと心配になった。
 試しに体を少し起こすような動作をしてみた。
 その瞬間、異様な感覚に襲われた。重く熱い何かが俺の腹部にのしかかっている。
 痛みというより、薄気味の悪い感覚で、途端に力が抜けてしまった。
 体に力が入らない。亀のように、自分で体を起こすことが出来ない。
 ほんとうに、歩けるのかと再度思った。


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