是奈でゲンキッ!W 『デッドヒート・ラバース』-4
そして、T字路に飛び出すや否や、滑って来た反動を使って車体を起き上がらせると、そのまま一気に右折して、あっと言う間に走りさったのであった。
是奈はまるで狐にでもつままれた思いで居た。しばらく坂の途中で立ち尽くし、ポカンと開けた口も塞がらない様子である。
「すっ……凄い…… 凄すぎる。って言うか、今の人……滑りながら身体の右側を擦っていたような…… 痛くなかったのかなぁ!?」
なにやらそんな事を思うのが、精一杯だった。
学校にて。
2年D組の教室で、男子生徒達が騒いでいた。
「よう田原ぁ。お前どうしたんだその右肘の包帯!」
なにやら嘉幸の腕に巻かれた、大袈裟な包帯を見て、クラスメイトの男子が尋ねて来たようである。
嘉幸は、なんだか照れ臭そうに。
「あっう〜ん…… 大した事じゃねーよ。今朝ちょっと自転車に乗っててね……」
そう言うだけである。
「なんだ扱(こ)けたのか? お前らしくねーなぁ。藤見晴市で無敵を誇る『チャリ坊田原』も、弘法も筆の誤り、猿も木から落ちるってやつかぁ」
「あはははぁ…… 俺なんかまだまだ、ヒヨっ子さっ。トライアルの世界は甘くないって事かな」
そう言って頭を掻きながら笑う嘉幸を囲んで、男子生徒達も彼を冷やかし、おもしろがっている様子であった。
そんな嘉幸の姿を、D組の出入り口扉の陰に隠れて見詰めていた是奈であったが、何やら驚きの表情を浮かべ、眼を見開き、瞬き(まばたき)もせずに固まって居た様子である。
そして一言、漏らして言った。
「……た…大佐っ……おみごとです」
おしまい。
なお本編中で使用しました、『スペースヒーロー』の一部設定を、リレー小説、その他、SF内に掲載されて居る、創設者ランスロットさんの『宇宙の英雄』より引用、許可を頂いている事を、ご報告させていただきます。ありがとうございました。