プロローグのエピローグ-1
7
広間にまた、女の喘ぎ声が響いている。
今度はふたり分。といっても、片方は人ではないのだけれど。
「はぁ…。」
玉座に腰かけて、私はため息をつく。
目の前ではあいかわらず痴態が繰り広げられているけれど、もう見飽きてしまった。
あとは、死ぬまで精を吐き出してくれればそれでいい。
精液から相手の記憶を読みとって、その人間が経験した ‘最高の射精’を、触手に再現させる余興。
どの勇者もたいていは魔物娘が出てくるのに、別のものが出たところまでは良かった。
でもその相手は想い人、なんてオチがついては興醒め。
「愛など粘膜が造り出す幻想に過ぎない」って昔のエライ人が言ったそうだけど、まさにそれね。
「ふぅ…。」
またため息が出る。
興醒めなことがもうひとつ――今度の‘モルモット’も、また失敗作だった。
「…まったく、‘我が子’とは思えない出来の悪さね…。」
――‘淫女王’となって幾星霜。
私も、最初はただのサキュバスだった。両性具有、という点を除いて。
ふたなりは絶大な精力の証。
私の強大な淫気は、向かってくる者すべてを傅(かしず)かせた。
どれだけ誇りが高かろうと、どれほど勇猛で野蛮だろうと、すべてが私の前では股を濡らし、精液をほとばしらせ、悦んで跪いた。
私はまたたく間に魔物の王となって、魔物という生物の在り方まで変えた。
すべての魔物が、人間を‘襲う’ようになった。
――それから数百年。私は退屈しはじめた。
誰も私に刃向かえない。誰も私に、性の悦びのひとかけらすら、与えてくれない。
だから、私は余興をすることにした。
両性具有の夜魔らしく、人間の女と夢で交わり、子を宿すのだ。
そうして宿した我が子なら、私の城に‘帰って’くるはず。
人にあるまじきその精力で、私に性の悦びを、あわよくば絶頂を――与えてくれる勇者として。
「ん…。」
それを妄想するたび、セックスではずっと萎えたままのペニスがわずかに反応して、私は陶然とする。
でもその陶酔も、獣じみた‘我が子’の嬌声に掻き消されてしまった。
――期待した結果がこれ。まぁ、に裏切られた回数も千や二千ではきかないし、今更どうということもないけれど。
‘母’の気持ちなどつゆ知らず、不肖の‘ムスコ’はあいかわらず嬉しそうに腰を振っている。
もう区別も付かないだろうから、姫の下半身より上は触手に戻してある。
触手から生えた女の下半身に、必死で腰を打ちつけ続ける‘元勇者’。
その獣じみた喜声(きせい)だけが、広間にこだまし続ける――
まぁ、時間だけは腐り果てるほどある。
愛情に満ちた母親らしく、私は次の‘我が子’の帰りを、この玉座で待つとしよう。