広がる不安-5
翌日、お姉ちゃんから純兄ちゃんが撮影に参加する事を聞いた私は、学校からの帰り道美菜お姉ちゃんにその事を伝えていた。
「ねぇ?葛城君!やっぱり女装するんだ!」
「五月蝿い!」
私達はふてくされたように前を歩く純兄ちゃんをからかっていた。その時前の方から亜梨紗さんが走って来て
「あっ!いい所にいた!瑞希(みずき)が大変なの!」
「えっ?瑞希ちゃんが?」
「うん!向こうの公園で変な男の人につきまとわれて....」
「わかった!」
純兄ちゃんは鞄を亜梨紗さんに預け走って行った。私達も後を追った。
「お前ら何してるんだ!」
純兄ちゃんの叫び声が聞こえ女の子が二人の少年に絡まれているのが見えた。
「ヒ・ト・ノ・オ・ン・ナ・ニ・テ・ヲ・ダ・ス・ナ!」
純兄ちゃんが叫んだその言葉が私の胸に突き刺さった。見ると美菜お姉ちゃんも不安そうな顔をしていた。「なんだ?お前は!邪魔するな!」
二人の少年が純兄ちゃんに殴りかかってきた。しかし純兄ちゃんに適うわけもなく腹にパンチを一発打たれてうずくまっていた。
「覚えてろ!」
少年達は腹を抱えながら去って行く後ろ姿に
「今度こんな事すればタダじゃ済まさねえぞ!」
純兄ちゃんが叫んでいた。私達が着く頃には何事もなかったかのようになっていた。
「あいつらも不運だったね!お前が来るなんて....」
亜梨紗さんが純兄ちゃんに話しかけた。
「逆だろ!もし隼人だったらあんなもんで済まされないぞ!拳の重さが違うからな!その事は俺が一番わかってるからな!」
「そうだな....」
亜梨紗さんは笑っていた。
「ちょっと!純君!私はいつから純君の女になったの?」
少年達に絡まれていた少女が純兄ちゃんに話しかけた。その少女は美菜お姉ちゃんや亜梨紗さんに負けず劣らない美少女だった。
「何言ってんだよ!俺は他人の女に手を出すな!って言ったんだよ!俺の女になんて言ってないよ!」
「あの場面でそう言うと一緒でしょ!」
「そうか....迷惑だった?」
「そんな事ないけど....」
二人の会話に亜梨紗さんが割り込んだ。
「あんたはお礼を言うのが先でしょ!」
「あっ!そうか....ありがとう純君!」
笑顔でそう言われて純兄ちゃんは照れていた。
「いいよ....別に....」
純兄ちゃんの顔は真っ赤になっていた。
「それじゃあ....瑞希を送ってあげてね!」
「えっ?」
「彼氏としては当然でしょ!」
「だから俺は....」
「あの人達がおとなしく帰ってくれてるといいけど....」
「わかったよ....」
「大丈夫だよ....そこまでしてもらわなくても....」
「気にしなくてもいいよ!瑞希ちゃんの事は隼人からも頼まれているから!」
「えっ....でも....」
少女は私達の方を見た。
「そういう事だから彼女を送って行くね!」
純兄ちゃんにそう言われると
「うん....」
私達は頷くしかなかった....
「それじゃあ..また明日!」
純兄ちゃん達が帰って行くと私達だけが取り残された。
「純兄ちゃん....瑞希っていう子の事どう思っているんだろう....」
「なんだか....私達が入り込む隙がなかったよね....」
「うん....」
私達は純兄ちゃんが歩いて行った方を見つめていた。
「彼女の事だったら....気にしなくてもいいよ!」
後ろから声をかけられた。
私達が振り返ると少年が立っていた。