それぞれの世界-1
あの喫煙室での一件以来、あたしは久留米さんと顔を合わせると会釈したり、挨拶するようになった。
もともと馴れ馴れしいところのあるあたしは、喫煙室で久留米さんと一緒になった時は、自分の話をしたりするようになる。
まあ、さすがに塁のことは言えないから、友達の話とか家族の話とか他愛のない話ばかりだけど。
それでも最初のうちは、彼に素っ気なくされて凹むことが多かったけれど、あの久留米スマイルをもう一度見たいがために、あたしは結構頑張った。
次第にそうした努力は実を結び、彼もあたしにちょこちょこ仕事の話とか、テレビの話とかしてくれるようになった。
そうやって、あたしが久留米さんと話をするようになると、他の職員の方々は信じられないといった表情になっていた。
あの鉄仮面男が、ポッと出の臨時職員と仕事以外の会話をしている光景は、それはそれはレアなものに映ったらしい。
その職員の方々の驚く顔が、あたしを少しだけ優越感に浸らせてくれたりもする。
久留米さんは話して見れば意外と普通の人であり、今なら副島主幹の“昔は明るくてノリのいい奴だった”って言葉がなんとなく理解できるようになった。