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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜1st contact〜-12

1分後、千夏がオレンジ色のジュースを手に、にこにこしながら戻ってきた。
「『お嬢ちゃん可愛いからまけたるわ』、やって! やっぱしわかる人にはわかるんやなぁ」
何故か僕を見上げながら、千夏はプラスチック製の容器を煽る。
「‥‥大丈夫なん? このジュース」
筑波が怪訝そうに千夏の手元のコップを覗き込む。ぱっと見は確かにオレンジジュースだ。別段、変わったところはない。しかし妙なことに気付く。先ほどの屋台の客の年齢層が、どうも高いような気がする。派手派手な女性から、頑固そうな年配の男まで、いろいろな客が飲料を購入していく。
イヤな予感がよぎる。
「千夏、ちょっとそれ貸しぃ」
僕は千夏からコップを奪うと、もうほぼ空に近いその橙色の液体を煽った。

‥‥‥。

‥‥‥!

「──お前っ、コレ、スクリュードライバーやんけ!」
僕が叫ぶ。
「‥‥って何?」
筑波が僕の顔を覗き込む。
「ウォッカをオレンジジュースで割ったカクテルや。‥‥ま、早い話が酒やな」
「いや、ってか神崎くん何でそんなん知ってんの‥‥?」
「ホンっマに‥‥未成年がこんな公の場で飲酒なんてありえへんで‥‥」
僕は筑波の冷たいツッコミをスルーし、げんなりしながら千夏を見た。
「いや、でもさすがに一杯じゃ‥‥」
「いややわ、幸妃っ! 間接キスやんかっ!」
筑波が言いかけたとき、ばしっ、と千夏が僕の肩を叩いた。‥‥やっぱりか‥‥。
「こいつ、腹すかしてたやろ? そういう時って酒もまわりやすいねん。しかもコイツ、元々強くもないしな」
「いや、だから何で神崎くんそんなん知ってんの‥‥?」
「堅いこと言うなよぉ、美沙ちゃーん」
千夏が筑波にしなだれかかる。完全にタチの悪い酔っ払いだ。
「ちっ‥‥しゃあないな‥‥」
僕はジーンズのポケットから携帯電話を取り出す。
「──あ、秋平?悪いねんけどな、千夏引き取りに来てくれへん? ‥‥あぁ、広場の入口で待ってるから。うん、頼むわ」
電話を切ると、僕は大きく息を吐き出した。千夏と外出するとろくなことがない。
「今の、誰?」
筑波が僕を見上げる。
「千夏の弟や」
千夏には年子の弟がいる。何らかの事情によって千夏が再起不能となった場合には昔から世話になっていた。
筑波は納得したように頷くと、絡んでくる千夏の腕を煩わしそうに、それでいてやんわりとはねのけた。
 
 
半分寝ていて足元が覚束ない千夏に肩を貸し、僕と筑波は広場の入口まで歩いた。
入口付近で5分ほど待つと、黒い自転車に乗った少年がライトを光らせてやって来た。
「健兄、ごめんなぁ」
 秋平が、短めの黒髪を申し訳なさそうに掻く。
「えぇよ。今に始まったことちゃうやろ」
やはり姉弟だけあって秋平に千夏の面影が重なる。特に目元はまさにそのものだ。
「それより‥‥」
秋平がにやにやしながら僕の耳元に口を寄せる。
「隣の娘は、彼女?」
 
──ゴッ。
 
僕は秋平の脳天に拳を落とした。強めに。
「な‥‥!」
「さっさと運べ」
うっすらと涙を浮かべる秋平に、胸倉を掴み、ドスをきかせた低い声で命じた。秋平は一瞬頬を引きつらせると、かくかくと頷き、素直に自転車に跨がった。千夏は寝ぼけながらも、その背中にしっかりと捕まっている。
「‥‥どうしよっか?」
秋平の自転車が夜の闇に消え行くのを見送ると、筑波が僕のシャツの裾を引っ張りながら訊く。その姿に、僕は既視感を感じる。


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