ナンパ野郎-6
そして、その手は今度はグイッとあたしの身体を後ろへ――恐らく自分の方へ――引き寄せた。
ナンパはしょっちゅうされるけど、あたしが気の強そうな顔をしているせいか、初対面でボディタッチに踏み込むほど、図々しい輩に出会ったことはない。
無視しても強引に肩を掴んだりして引き留める奴はいるけれど、こんな風に馴れ馴れしくしてくる奴なんていなかった。
今までのナンパ野郎が可愛く見えるほど。
あー、マジムカつくんだけど!
そんなあたしは、舌打ちを相手に聞こえるくらい、大きく鳴らしてから思いっきり男の手を振り払ってやった。
「ちょっと痛いんですけど!」
赤茶けたゴツめのブーツが、手を振り払われた弾みで一歩下がる。
履き慣らしたであろうそれからニョキッと伸びた細身のジーンズ。
そのシルエットから、声の主は痩せた男なんだろうな、と思った。
一方声の主は、一向に怯むことなくカラカラ笑う。
「あー、ごめん。強く掴みすぎちゃった」
そんなヘラヘラした口調がますますあたしを苛立たせた。
こんな奴は相手にしないに限る。
目も合わせないで踵を返したあたしは、残りの横断歩道を渡ろうとしたけれど。
「待ってよ」
男は今度はあたしの肩を掴んで、引き留めてきたのだ。
あー、もう、ホントしつこい!!
頭の中でプツリとキレたあたしは、ついに掴んだ手をバッと振り払って男と対峙する決意をした。
ここまでしつこい奴、ビシッと言わなきゃわかんないんだ。
「馴れ馴れしく触んないでよ! あたし、あんたに構ってる時間なんて……」
振り返ってハッキリ迷惑だと言ってやるつもりで、弾丸のように口から飛び出した言葉が、みるみるうちに失速していく。
いよいよ声の主と向き合ったあたしは、そのままポカンと口を開けたまま固まってしまった。
仰いだ先にいたのは、大きな瞳が印象的な、顔の小さな男。
ちょっとつり上がった勝ち気な瞳は、やけに無邪気に目を細めているせいか、やんちゃな少年のように見えた。
無造作にあちこち跳ねている長めのショートヘアがよけいにあどけなく見せているせいなのかな。
とにかく端正な顔をしてるくせに、笑った顔があまりに無邪気だったからか、不覚にも見惚れてしまっていたのだ。
「…………」
「いや、赤信号を渡ろうとしてたからさ」
「え?」
男が指差した先を辿ればすでに赤信号になっていて、車道はビュンビュン車が行き交っていた。