「しちゃう?」-4
部屋に戻ってジーパンを脱ぎ、ペニスを引き出して握った。勉強などできる状況ではなかった。
(千香ネエ……)
乳房、尻、太もも……。たったいま目にした彼女の体が脳裏いっぱいに広がってぼくを圧してくる。いや、脳裏だけではない。目の前に千香子がいるかのように姿が浮かぶ。裸が見える。そんな錯覚すら起きていた。
握った手にズキズキと脈動が伝わってくる。幹の硬さは金属で被ったような漲りだ。
扱いたらあえなく噴き出してしまうだろう。
ぼくは目を閉じて千香ネエの裸を思い浮かべた。
(すぐ出すのはもったいない……)
千香子と抱き合い、ゆっくりその肉体を味わいたい。
そっと擦り、時に手を離し、妄想を広げていく。
薄い透けたパンツをはぎ取ればアソコが見える。そこにこのペニスを……。
(千香ネエ……好きだ……)
突然、ドアが開いた。
(!……)
ぼくは声も出ず、体が硬直してしまった。
千香子が口を開けたまま立っていた。目を大きく見開いて……。
慌てて股間を隠したが完全に見られていた。
「おお……すごいとこ見ちゃった」
千香子も驚いたはずだが、ふだんの調子で部屋に入ってきた。
「なんだよ、いきなり」
ぼくは背を向けてペニスを押し込んだ。びっくりしたので瞬く間に縮こまっていった。
「勉強するって言うから果物持ってきたんだよ」
机に置いたお盆には梨の入った器が二つ載っている。一緒に食べるつもりで剥いてきたようだ。
「そう……」
何と言っていいか、居たたまれない心地であった。
しかし、千香ネエはすごい。ドアを開けた時、一瞬、見たことのない戸惑いを見せたように思えたが、動揺など微塵もみせずに突っ込んできた。
「シュウのオナニー見ちゃったぞ」
「なんだよ……やめろよ」
「いいじゃね。男はみんなするんだろ?」
困ったもんだが、彼女の開けっぴろげな性格のおかげで救われたのはたしかである。
「途中だったんだろ?続きしていいよ」
「何言ってんだ……」
「やっぱ、やりにくいか」
千香ネエはけらけら笑った。
(何も感じないのだろうか……)
ぼくの勃起したペニスをまともに見たのである。オナニーの真っ最中だったのである。
「シュウ、彼女いるの?」
「いないよ……」
「童貞?」
まったく、ずけずけと……。
「童貞かぁ……」
答えなかったことが返事となった。
「千香ネエは彼氏いるの?」
「いないよ。ソフト一筋。なーんて。お互いもてないな」
(じゃあ、たぶん、経験はないんだろう……)
あけすけな話をしているうちにぼくも突っ込みたくなった。
「千香ネエも、オナニーすることあるの?」
答えに窮するかと思いきや、
「するよ。たまに」
すぐさま答えてきた。
「へえ……。千香ネエも……」
「おかしいか?」
「おかしくないけど……よくわからないから……」
「わからないって?」
「……やり方とか、どういう時、するのかって……」
千香子の返事がない。テンポよくオナニーする時の心情を呆気なく披露してくれるものと待っていた。
(おや?……)
顔を見ると珍しく俯いて、小さな溜息をついた。
「そうだなあ……。あたしも、シュウの気持ちがどんなんだか、わからないもんな……」千香子は考える様子を見せた後、口元を弛ませた。
「だけど、けっこう、大きいんだな」
言ってから恥ずかしそうに目を逸らせた。気のせいだろうか、頬がほんのり赤らんだように見える。
「おっ勃つと、ふつうだよ」
「あんなになるんだ……」
(千香ネエは、初めて見たんだ……)
ぼくだって、AVでは観ているけど、『生』の割れ目は見たことがない。
「シュウ、どんな時、オナニーしたくなるの?」
唐突に訊かれたけれど、ぼくには妙な落ち着きがあった。ぼくは千香ネエの目を見つめて言った。
「昂奮した時、刺激があった時……」
「今日、刺激、あった?」
「……あった……」
千香ネエは間を置いてから、
「どんな?」
ぼくは千香ネエを見据え、離さなかった。
「千香ネエの、裸……」
「発情したか?」
「したよ、するに決まってるよ。誰だって」
「そんな色っぽい?」
千香子は悪戯っぽく笑い、自分で乳房を揺すってみせた。Tシャツの下はノーブラである。乳首がはっきりわかる。
そういう問題じゃない。パンツ一枚の裸なんだ。刺激を受けるのは当然だ。
優位に立ったという気持ちがまた圧され始めた。
「千香ネエはどうなの?どんな時、オナニーするの?」
逆襲したつもりが、肩透かしを食った。
「やっぱり昂奮した時だよ」
「どういう?」
「交尾かな」
「交尾?」
「動物の交尾」
(ふざけんなよ……)
「ほんとだぜ」
うっかりしていたが、話をしているうちに勃起していた。
「勃ってるじゃん。見せて」
「やだよ」
パンツ姿のままだった。
ぼくはちょっと腹を立てていた。真剣に、真剣に、千香ネエが好きだったからである。
「勉強するんだよ。もう終わりだ」
ぼくはパジャマを穿き、机に向かって椅子に座ると、千香子に頑なな背を向けた。千香子は何も答えず、間もなく出ていった。