「しちゃう?」-2
「あぶないぞ!」
心配して叫んだ。千香子は笑っている。流れにのって近づいてくる。
(なんだ、泳ぎもうまいのか……)
ほっとしながら、つくづくかなわないと思ったものである。
この時、飛び込み以上に脳裏に焼き付いたのは水から上がった彼女の下半身である。ぴったり肌にくっついた濡れたパンツ。薄っすら肌が透けてたしかな割れ目が浮き出ていた。それにシャツも透けてブラジャーがくっきり見える。
「ジーパン取って来てやる」
直視できずに岩に向かって走っていった。
翌年にはお尻を垣間見た。やはり林を歩いている時にオシッコがしたいと言い出した。
「見張ってて」
ぼくに言うと灌木の中に入っていった。さすがに恥じらいはあるらしい。だが木の陰から覗いて呆れた。ほんの数メートル先で尻を丸出しにしているのである。
中学三年。恥ずかしくないのだろうか。
間もなく放尿の音が聴こえてきた。
奔放で男勝りの千香ネエ。幼い頃から彼女のペースに合わせて同性のように振る舞ってきたぼくだが、異性としての意識はたいぶ前からもっていた。
胸が膨らみ始めたのは小学校五年生くらいだったと思う。気がついたら平板な胸にスーパーボールみたいな突起ができていた。とても気になったのを憶えている。
それから一年ほど経った頃、母が叔母に、正月でもないのに「おめでとう」と言っているのを聞いた。生理が始まったのだと思う。むろんその時はわからなかった。
会う度にオッパイは大きくなっていく。お尻も太もももぼくよりふくよかになっていった。
ぼくも大きくなっていった。勃起が頻繁に起きるようになった中二の春、蓄えられていた男の精気が白い飛沫となって叫びをあげた。
千香子が滝つぼでパンツに秘形を映した時も、放尿する尻を見た時も、ぼくは勃起していた。プロレスをしていた時だって何度も股間は硬くなったものだ。それを隠すために逃げ回り、すぐにギブアップした。
(千香ネエはどうなんだろう……)
ぼくが感じるように、ぼくを異性とは意識していないのだろうか。
(していないな……)
いまでもプロレスをし兼ねない調子だ。筋トレやって、ソフトボール命って感じだ。
(でも、女だよな……)
蓄積された彼女への想いはいつの間にか密かな恋心となって芽生えていた。
叔母の家に一週間厄介になると決まってから、過った不安があった。
(千香ネエは、気づいていたのだろうか……)
あの時のこと……。
一年前の夏、千香子は一人でぼくの家に泊まった。ソフト部の合宿がぼくの家から車で三十分ほどの所で行われることになり、希望者は現地集合でもいいというので前日にわが家へやってきたのである。
「車で送ってあげるよ。おいで」
父が誘い、
来年は受験の年だから何かと忙しくなるだろう。
「おいしいものをごちそうするから」
母も口添えしていた。
「千香ちゃん、生シラス食べたいっていってたわ。漁があるといいけど」
天候が悪いと出漁できない。冷凍物もあるが、生でも茹でたものでもシラスは獲れたてが美味い。
父も母も遠慮のない千香子をずいぶん可愛がっていたものだ。うちに女の子がいなかったということもあるかもしれない。
その夜、遅くなってぼくの部屋にやってきた千香子は持ってきた紙袋から日本酒の小瓶を取り出した。
「ちょっと飲まない?」
「千香ネエ、お酒飲むの?まるでオヤジだな」
「うまいんだよ。寝る前に飲むと。寝酒、寝酒。伯父さんたちには内緒だぜ」
たぶん味なんかわかってはいなかったと思う。面白半分だったのだろう。飲み方も知らず、くいくい空けて、二合の酒を二人で飲んだ。
ほぼ半分ずつ飲んだと思う。千香子は真っ赤になってぼくの布団に横になると眠ってしまった。
「千香ネエ」
揺り起こしてもわけのわからないことを言って目を開けない。
じっと彼女の体を見ているうちに息が弾み始めた。
豊かな乳房が眼前にある。そして短パンから伸びたむっちりとした脚。
(見たい……)
欲求が膨らんだ。
だぶだぶの余裕のある短パンの裾から覗くとパンツが見える。
「千香ネエ……」
今度はまったく反応はなく、静かな寝息を立てている。
裾をつまんで広げてみた。腿の付け根に食い込むような下着。
(ああ、アソコが……)
あの膨らみが……。
鼻を近づけると風呂上がりのお湯とシャンプーの香り。その中に仄かな肌の匂いが混じっている。芳香であった。
さすがに脱がせるわけにはいかない。
(触りたい……)
せめて、それだけ……。
量感のある肉体は身動きしない。
短パンのゴムを指で持ち上げてみる。さほどきつくはない。もう少し上げ、隙間に手を入れる。すぐにパンツに触れた。指を潜らせればほどなく陰毛に届く。
千香子の顔を見ながら、下腹に密着させ、下降していった。
(毛だ……)
指先に絡む陰毛。この奥に、
(オマ○コがあるんだ……)
温かい湿った肌。……
不意に千香子が声をあげたので慌てて手を抜いた。
「千香ネエ」
「ああ、眠い。寝ちゃった?」
「うん。酔っ払ったんじゃないの?」
「そんな感じ。シュウの布団か」
「千香ネエは隣の部屋だよ」
「わるい。あっち行く……」
千香子は立ちあがるとふらふらとした足取りで出ていった。
目覚めた時の様子からすればぼくの行為に気づいていたとは思えないが、後ろめたさをずっと引きずっていた。