縁側での秘め事-1
これは、私が友人から聞いた話だ。
友人によるとこの話は、彼の友人の身に実際に起こった出来事らしい。
要するに、私の友人の友人の体験談、ということになる。
0
俺が大学生の頃、友達の家に遊びに行った時の話だ。
(注:ここに出てくる「俺」はもちろん「私」ではないし、「友達」も「私の友人」とは別の人物だ。)
ソイツとは大学に入ってから知り合った。
俺がバイカーなのを知って、「じゃあ俺のじいちゃん家(ち)までバイクで来てみろ、‘イイ思い’させてやっから」とか何とか言って誘われた。
特に予定も無かったし、じゃあ今度の夏季休暇にでも行ってやらぁ、とか言ってOKしたんだ。
で行ってみると、これがなかなかイイ所だった。
何県だったか忘れたけど、中部地方の山のほうだった。手つかずの自然が残ってるって感じで、楽しいツーリングだった。
言われたとおりの住所まで行ってみると、これがいかにも日本家屋って感じで、縁側まである。中から、すでに帰省していた友達が出てきた。
友達の祖父母はすごく親切にしてくれた。
それどころか、‘あまり外から人が来ることなんてないから’と、隣近所のじいちゃんばあちゃんまで俺を歓迎して、色々とご馳走してくれた。
やっぱ山奥だけあって山の幸が豊富で、肉なんかもスーパーで売ってるのなんて比べ物にならないくらい旨かった。
友達ん家(ち)で出された分だけでもすごかったのに、そこに隣近所からの差し入れもプラスされて、夕飯はずいぶん豪勢だった。
アイツが言っていた‘イイ思い’もつまりはこの事かと、まだその時は思っていた。
夕飯が済み、一番風呂もありがたく頂戴した。
風呂は気持ちよかったけど、夏なのでさすがに風呂上がりは暑かった。
エアコンなんて物はなく、扇風機の前でばたばた団扇を使っていると、Kさん(友達の祖父の名前だ)が来て、「寝間の準備が整うまで、縁側で涼んできなさい」と言われた。
なぜか断れない威圧感があって、まぁ断る理由もなかったし、俺は縁側で涼むことにした。
で、縁側に座って庭を眺めてた。
特に何もないけど綺麗に手入れされた庭で、道路との境にはかなり高い生垣が植えてあり、それで通行人の視線をさえぎっていた。
しばらくぼーっとしていて、‘さすが田舎、人っ子ひとり通らねー’なんて思った矢先、前の道を人が歩いているのが‘見えた’。
生垣の上を、麦わら帽子のような形の白い帽子が移動していく。
‘前の道を人が通ってるんだなー’と思いながら、なんかおかしい――という違和感がひろがっていく。
そうこうするうちに、白い帽子が生垣の切れ目に到達した。
1
生垣の向こうから現れたのは、女だった。
見た感じ20代半ばだが、麦わら帽子のような白い帽子に白いワンピースというのが、年の割に幼いいで立ちでちぐはぐだ。
でも、そんな服もすんなり着こなせてしまう、ある種の神秘性を感じさせる女性だった。長く伸ばしたストレートの黒髪も、そんな印象を強めている。
でもそんなことより、異様なのは彼女の身長だった。
――高い。あまりに高すぎる。
俺だって背は低いほうじゃない。
でも俺を見下ろしているこの女性は、俺が立ち上がって横に並んだとしても、変わらずに俺を見下ろしているだろう。
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ・・・」
音が降ってきた。濁音とも半濁音ともとれる異様な音だ。
見上げて、その音が女の口から発せられていると気づく。
八尺様。
都市伝説に語られる、神とも妖怪ともつかない謎の存在。
しかも噂どおりなら、かなりヤバイ部類の存在。
「私が何者か、分かったようね・・・。」
恐れと驚きで声ひとつあげられない俺に、今度は人語が降ってきた。
「・・・・最初に言っておくけど、巷で言われている事、あれほぼ全部嘘だから。」
・・・は?
今度はあっけにとられて声が出ない俺に、女はわりと人懐こく笑った。
とりあえず、彼女は‘八尺様’で間違いないらしい(にわかには信じがたいが)。
だが彼女の言い分によると、別に子どもを襲ってとり殺しはしないらしい。
「あの話で正しいのは・・・私の風貌くらいかしら。」
自分の身体を見回しながら言う。
じゃあさっきの「ぽぽ…」は何だったのかと聞くと、
「なぜかそう言う事になっているから、最近は言ってやる事にしているの。言われた人間の反応が面白いんですもの。」
くすくす笑いながら、悪びれる風もなく言う。
・・・確かに、そんなに凶悪には見えない。
「で、貴方はおおかた、ここの家主に『縁側で涼んできなさい』とか言われて、ここに居たのでしょう?」
何だか知らないが図星を突かれて、俺は目を丸くする。
「やっぱり・・・。という事は、今年の‘生贄’は貴方なのね・・・」
生贄、という不穏当な言葉に心臓が跳ね上がる。
「うふふ、ごめんなさい。別に捕って食べようと言うんじゃないの。別の意味では‘食べる’、のだけど・・・・」
そう言いつつ、女が俺のほうへにじり寄ってくる。
「貴方も、『イイ思いをさせてやる』とか言われて、期待して来たんじゃないのかしら?」
イイ思い。そういえばアイツがそんなことを言っていた。いやしかし、これはまさか・・・・
「大丈夫。貴方は気持ちよく精を吐き出すだけでいいの。私に身をゆだねなさい・・・。」