少しだけ、揺れる-6
「あの、良かったら飲んで下さい」
しかし。
「……別に気を遣わないで下さい」
すぐさま彼はあたしの好意をバッサリ一刀両断した。
しかも、表情一つ変えずに。
全く付け入る隙のない彼に、ショックで泣きそうになってきた。
この人、愛想がないだけじゃなく人間的に問題あるんじゃなかろうか。
仕方なしに、あたしは行き場を無くした缶コーヒーをテーブルの上に置くと、ため息をついてから煙草を一本口にくわえた。
一筋縄じゃいかないって、副島主幹の言ったとおりだ。
無愛想な人なんて今まで生きてきた中でたくさん出会ってきたけど、この人のそれは群を抜いている。
確かに、よく知らない女からいきなり缶コーヒー渡されたって気持ち悪いと思われるかもしれない。
でも、あたしには昼間助けてもらったという名目だってちゃんとあるんだから、素直に受け取ってくれたっていいじゃない。
断るなら断るで、言い方やそれなりの態度ってもんがあるでしょう?
だんだん腹が立ってきたあたしは、バレないように久留米さんの履いてる革靴を睨み付けてやった。
さっきは助けてくれたことに驚き、あたしの言いたかったことを松村主査らに言ってくれて、ちょっと素敵だなあなんて思ってしまったけど、やっぱり取り消し!
一瞬でもこの男にドキドキしてしまった自分が情けない。