つがいの条件-3
湯に濡れた唇に吸い付いた。
裸身のマルセラを膝にのせて真面目に洗う、なんて芸当が出来ていたのは、酷い扱いをしてしまった罪悪感でいっぱいだったからだ。それすら、たちまち霞んでいく。
足りない。さんざん喰ったはずなのに、苦しいほどまだ欲しい。
頬を押さえて口を大きく開かせ、舌を吸い出すようにして何度も嬲る。息苦しさにマルセラが身を捩ると、二人の身体の間で、石鹸のぬめりがくちゅくちゅ音をたてた。
「は、ぁ……ぁ……」
開放した唇を名残惜しく指先でなぞり、どうしたらいいか見当のつかない憤りに、顔をしかめた。
「あれだけ抱いたのに、もうこのざまだ」
石鹸の泡だらけの裸身を、自分にいっそう密着させる。早くも熱を持った部分を、マルセラのわき腹に当たるよう押し当てた。
「あ……」
ビクリとわずかに肩が震えたのを見逃さなかった。
自嘲の苦い笑みが口元に浮かぶのを感じる。
セックスなんか、溜まったものを吐き出すだけのはずだった。
一人で処理するより気持ちいいから、金を払って相手の身体を買うだけだ。
相手をそこそこ楽しませるのは礼儀みたいなもので、それだってよほど気が向かなければしない。
突っ込んで吐き出す行為は誰が相手でも一緒のはずなのに、マルセラを抱いた時はまったく違った。
苦しいほどの飢餓感につき動かされ、自分の欲を満たしながら、相手にも悦んでほしかった。
組み敷いた身体がわずかでも甘い反応を示すだけで、ゾクゾクするほど嬉しくなる。
必死に縋りつかれ、上擦った声で名前を呼ばれた時は、あまりの興奮に目の前が真っ赤に染まった。
「……お前こそ、あんなに手酷くやられて、もう嫌だと思わないのかよ?」
コイツの嫌がることはしたくない。泣かせたくない。笑っていて欲しい。
抱くなら気持ちよくだけさせたいのに、止まらなくなる。
「ん、やっぱりちょっと最初は痛かったけど……」
狭い浴槽の中でジークに抱えられたマルセラが、不自由そうに身体を捩らせた。横向きになり、子猫が甘えるようにピトリと胸元に頬をくっつける。
「ジークはすごく優しくしてくれたから、怖くなかった」
――チクショウ。これもう、有頂天になっていいよな?
片手で抱き締め、もう片手を下肢の間に伸ばす。亀裂に指をもぐりこませると、内部からグチュリと白濁液が零れだした。
「あっ! 後は自分で洗……」
赤面して逃れようとした身体をしっかりと抱きかかえた。
「俺がやりたいんだよ。お前の参考資料には、こういうのは載ってなかったのか?」
耳元でからかうと、たちまち耳朶が真っ赤に染まった。
泡の合間で震えて尖っている胸の先端をつまむ。
「んんっ!」
指を咥えこんだ箇所が反射的に締まった。
熱をもった耳朶を甘噛みし、きつく締め付けてくる内部で指を動かし、残滓を掻きだしていく。
昨夜、弄られるとマルセラが反応していた箇所をいくつか覚えたから、軽く指を曲げて押すと、四肢がビクリと跳ねた。
ジークの胴へ巻きつく手に力が篭り、胸元に顔を埋めたまま、鼻に抜けるような吐息を零す。
自分が快楽を得ているわけでもないのに、やはりたまらない愉悦が背骨を這い上がる。
今すぐにでも、また身体の中に欲望を突き入れたい誘惑に駆られたが、寸でのところで堪えた。
代わりに右手は秘所を嬲りながら、左手の泡を湯で流し、マルセラの口元につきつける。
「ほら、咥えてくれるんだろ? これで練習してみろよ」
「え……? ん、ん……」
薄く開いた口元をこじ開けるように、三本揃えた指を押し込んだ。
小さな舌がたどたどしく指を舐めはじめる。暖かな柔らかい舌が指に絡みつく感触に、背筋が震えた。
羞恥で伏目になりながら、従順に愛撫を施す表情に、いっそう下腹が熱くなる。膝に抱えた柔らかな臀部に熱を挟み込むようにして腰を揺すった。