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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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つがいの条件-2

 抱いたまま浴室に連れて行き、どろどろのシーツを洗濯機に放り込んだ。自分も汗だくで気持ち悪かったから服を脱ぎ、マルセラを膝に抱えて空のバスタブに入る。
 マルセラは時おりチラチラとジークへ視線を向けるが、ずっと黙ったままだ。
 昨夜の扱いはあんまりだと怒っているのだろうか。
 それも仕方ないと、ジークは内心で溜め息をつき、シャワーのコックをひねる。
 手加減できないと宣言はしたが、幾らなんでもああまで理性が飛ぶとは思わなかった。

 とりあえず身体の汚れを落とそうと、マルセラの頭から温水をかけたが、勢いが強すぎたらしい。激しく首をふり、手を押しのけられた。

「ぷはぁっ! ちょ、ちょっと、待っ……」

「あ、悪ぃ」

 シャワーを止めると、ポタポタと栗色の髪から水滴が滴らせ、マルセラが首をよじってジークを見上げる。

「もう! 洗い方がヘタなの、子どもの時から変わってないんだね」

「は?」

 ジークの子ども時代など知る由もない少女に、思わず怪訝な顔を向けると、慌てて顔をそらされた。

「ううん、なんでもない。おかしな夢を見ただけ」

「……そうか」

 今度は少し慎重になってマルセラの腕をとり、スポンジで石鹸をよく泡立ててから、そろそろと擦る。血の滲む歯型に滲みるかと思ったが、肩口へ視線を向けて首をかしげた。
 痛々しいほど血が滲んでいた噛み後は、薄く赤みが残っているだけになっていた。
 よく見れば、あれほど大量にあった鬱血痕も、殆どが薄れて消えかかっている。

(俺みたいじゃねぇか……)

 ジークは子どもの頃から、傷の治りが異常に早かった。
 当時はそれを深く気にしたりしなかったが、あの劣悪環境を生き延びられたのは、驚異的な生命力を持つ人狼の血のおかげだろう。
 しかしマルセラはごく普通の人間のはずだ。
 元気だが、運動神経はお世辞にも良いとは言えず、しょっちゅう転んだりして怪我をする。
 こんな風にたちまち怪我が治る様子など、見たことはなかったが……。
 手を止めたまま、確実に薄くなった噛み痕を眺めていると、不意にマルセラが小声で呟いた。

「次は、もっと頑張るから……」

「頑張る?」

 聞き返した途端、ぎょっとした。
 首をよじってジークを見上げた大きな瞳には、シャワー以外の水滴が浮かんでいる。ぷっくりした唇が、泣き出しそうに震えていた。

「だって昨日は……本でいっぱい勉強しておいたのに、始まったら頭が真っ白になって……ジークもちゃんと気持ちよくなれるように、今度はもっと頑張る」

 涙を堪えながら訴えられ、息が止まりそうになった。

「気持ち良くなかったなんて、誰が言った! お前の身体は最高だ! 良すぎて止まらなかったくらいだ!!」

 動揺のあまり、余計な事まで口走った気もするが、マルセラは驚いたように目を見張る。
 そしてサファイア色の大きな瞳が、疑わしそうにジークを見上げた。

「細かいところまでは、あんまりよく覚えて無いけど、私は特に何もしなかった気がするよ」

「……おい、何する気だったんだよ」

 不穏な気配に恐る恐る尋ねると、マルセラは顔を真っ赤にして、自分の両手をもじもじと弄った。視線を泳がせながら、消え入りそうな声で呟く。

「ああいう時、女の子は手や口とか……胸なんかも使って、色々するんでしょ?」

「――――――っっっ!!!! お、おま……え……なぁっ!!」

 恥らいつつ熱心に淫らなご奉仕をするマルセラが、脳裏にくっきりと浮かんでしまった。
 突きつけられた性器を恐々と眺め、そっと手を添えて触れる様子や、頬を羞恥に染めながら柔らかな胸で挟んだり、小さな口を精一杯ひらいて咥える姿。
 目端に浮かぶ涙まで、ありありと想像できた。

 右腕と胸の古傷から、じわりと血が滲む。

「ジーク!? 血っ! 血が!!」

「……傷口がちょっと開いただけだ。すぐ塞がる」

 出血に湯をぶっかけて流したが、まともにマルセラの顔を見れず、肩口に額をつけて呻いた。

「前から思ってたが、お前は一体、どんな参考資料を読んでやがる。全部没収だ」

「ええーーっ! ウリセスさんから、せっかく貰ったのに!」

「アイツかよ!? なおさら没収! 絶対に確信犯で、偏った知識を植えつけられたぞ!」

 銀髪悪魔のニヤケ面を思い浮かべ、眉を吊り上げると、マルセラが心配そうに声を落とす。

「もしかして間違ってたの? そういうことは、されたくない?」

 潤んだ瞳で見上げられ、ジークは顔を真っ赤にして返答に詰まった。
 ここできっぱり、『お前はそんな事しなくていい』と言えたら……。

「く………………そ、そのうちしてくれりゃ、いいんだよ!」

 つい欲望に屈してしまう己の情けなさに、涙が出そうだ。
 すると言われたら多分……いや、絶対に拒否できない。
 今までされた数々の誘惑だって、メチャクチャ魅力的だった。次にやられたら、それこそ玄関先だろうが台所だろうが、その場で足腰立たなくなるまで犯してやる。

「とにかく、昨日は上出来だ。心配するな」

 ワシワシと髪を撫でると、マルセラはホッとしたように息を吐いた。

「よかった。起きてからずっと、怒ってるみたいだったから」

 ふわりと小さく微笑んだ唇に目を奪われる。
 全身から渇きにも似た欲求がせりあがり、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「……自分に腹立ててたんだよ」

「え……?」

 


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