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野生の悪魔が現れたっ
【ファンタジー 官能小説】

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白銀の翼-3

「はあ、んちゅ、ちゅぷ、んんぅっ、へぁ……」
「んぅぅ、れへぇ、れはああ……くちゅ、ちゅ、ぁぁ……」

 などと湿った音や吐息を頻りに洩らしている麻里子ともう一人の女子は、髪を撫でられると嬉しそうに頬の紅潮を色濃くしながら、ぴっとりと密着させている胸をゆっさゆっさと揺らし肉幹に甘美な刺激を与えている。唇と唇の間に亀頭を据えてねちこいレズキスを繰り広げている様子は、まるで甘露な飴を貪り合っているようだった。



 蒼天から降る日差しは柔らかかった。緊張の糸が緩みそうなほどだ。白い塗装が所々剥げている床を転がる微風は温かく肌を撫で、陽光を艶やかに弾く長い黒髪をサラリ、と揺らしていく。

「何?」

 授業中でしん、としている中で、鈴を転がしたような彼女の小さな声は後ろに立っている修一まで届く。素っ気ない一言だが、彼女の耳は微かに赤く染まっていた。

 屋上。教室を移動する必要がある授業時間を利用し、修一は澪をそこへ呼び出していた。
 催眠が掛かっている澪は、肉交を期待してショーツを湿らせ続けている。しかし命令が下っていない今、素の彼女が彼に背を向けさせていた。

 修一はポケットに突っ込んでいた手を出した。彼が澪を呼び出したのは特別可愛がるためではなく、ましてや、彼女の気持ちに応えるためでもない。彼が広げた掌に乗っている“謎”を知りたいがためだった。

「これ、何?」

 澪はゆっくりと首を捻る。そして、彼の手に乗っている物を見ると勢いよく振り返っていた。

「そんな……」

 修一が差し出していたのは金属片。元は五円玉に似た形状の、アクセサリーのような物だった。昨夕、クランが手を触れずに破壊した代物である。

 何故クランがこれを破壊したのか修一には分からない。しかしながら、クランの癇に障る代物であったという推測はできる。それは同時に、クランを豹変させた原因であるという考えに結び付いていた。

「澪?」

 驚愕の面持ちで修一の手にばかり視線を注いでいる澪に彼も驚いていた。これほど大きくリアクションをとる澪を、今の今まで見たことがなかった。

「……どうした?」
「私じゃ……救えない……」
「え?」
「私じゃ、片桐君を救えない……」

 澪はその場に崩れ、項垂れてしまった。肩の震えが、彼女の表情を隠す黒髪まで及んでいた。

「救う? なんだよ、それ……?」

 何言ってんだよ、と言いたげな修一だが、澪の様子のせいか、表情が引き攣っていた。
 澪は俯いたまま、微かに震える声だけ聞かせる。

「私……霊感があるの」
「霊感?」
「そう。最近、片桐君を呑み込もうとしてる黒い靄みたいのが……ずっと見えてる」
「黒い靄?」

 修一は思わず辺りを見回していた。しかし“0感”の彼には何も見えない。屋上を囲む高いフェンスと、その向こうに広がる街並みが映るだけだった。

「だからお守りを作ったの……」
「はあ……」

 イマイチ実感が湧かない修一には、澪が電波発言を繰り返しているようにしか受け取れなかった。

「だけど……効かなかった。今までこんなこと……なかったのに……」
「お、大袈裟だな……」
「大袈裟じゃない!」

 澪が顔を上げる。その勢いに長い黒髪は宙に広がり、彼女の目尻から……雫が飛んだ。

「片桐君は分かってない! 自分が置かれている状況がどれだけ危険なのか、全然分かってない!」

 キッ、と睨むような強い視線が修一を刺している。何かを強く訴えている彼女の瞳は溢れんばかりの感情を湛え、頬を伝っている。

「……どうして──」

 こんな澪を、こんなに感情を剥き出しにしている澪を、修一は見たことがない。

「──どうしてそんなに、俺を救おうとするんだ……?」

 その問いに、澪はまた俯いた。視線は横に逸れ、意味もなく床の一点を捉えている。

「………………好きだから」
「っ……」
「片桐君のことが……好きだから……」

 まったく予期していなかった答えに修一は言葉を失っていた。鼓動が激しく胸を打ち、顔が熱くなっていく。

 ────その時だった

 修一の頭上に現れたセピアの色彩が放射状に広がり、世界を侵食し始めた。空を染め、街を呑み、目の前の女の子さえも古ぼけた色に塗り潰していく。

「澪っ」

 慌てて抱き寄せようとするが、その腕は澪の身体を貫いていた。まるで手応えがなく、すり抜けてしまったのだ。

「え……」

 あまりの出来事に手を引き抜くと、澪の身体は元に戻っていた。彼女の今の様子がリアルな立体映像で投影されているようにさえ思えてくる。

「澪……澪!」

 至近距離で叫んでいるのに、澪は全く反応を示さなかった。

「どうなってるんだ……?」

 蘇る昨夕の光景。あの不安。あの恐怖。腹の底が一気に冷え、背筋が粟立っている。

 カツ、と背後から音が聞こえると口から飛び出すのではと思えるほど心臓が跳ね上がった。全身が戦慄き、こめかみでも分かるほど脈が激しくなっていく。

 それでも彼は、振り返らずにはいられなかった。


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