あたしが欲しかったもの-9
あたしがそこまで言うと、恵ちゃんは真っ青な顔で、左手で口元を押さえつつ椅子から立ち上がった。
「恵ちゃん?」
「……ごめんね、トイレ行ってくる」
ハンカチ一つ握り締めてトイレに駆け込んだ恵ちゃんの後ろを見送ると、自然と笑いが込み上げてくる。
この娘を追い詰めてやったという、達成感。
あたしよりも遥かに冴えないこの娘が、陽介の愛情を一心に受けている、その事実をあたしはどうしても認めたくなかった。
一見順調そうなカップル。
でも“普通の”カップルがするような付き合い方をしていけば、陽介はいずれそれに疲れてしまう。
陽介は普通よりもちょっとめんどくさがりで、自由が好きで……恵ちゃんみたいな生真面目な女の子が扱えるような男じゃないから。
陽介に最後までついていけるのは、あたししかいないのだから。
そして、ふと恵ちゃんの背中から目線を落とせば、テーブルの隅に置き去りにされた彼女のスマホが目に飛び込んできた。
思わずゴクリと喉を鳴らしてしまうあたし。
この中に、陽介と繋がるための情報が入っていると思うと、なんだかいてもたってもいられなくなって、しきりに髪の毛を触ったり、何度もトイレの方を見たり、落ち着かなくなってくる。
変に荒くなる呼吸や、やたら乾く喉。
――ダメよ。
人の携帯に勝手に触るなんて、いけないことだってわかってる。
でも、同時に勝手に浮かんでくる、陽介と過ごした日々。
陽介がカノジョとうまくいかなくなって、きまりが悪そうに笑う顔。
あの顔を見ると、陽介はやっぱりあたしじゃなきゃダメなんだっていつもそう確信してきた。
きっと今回だって、陽介はあたしの所に帰って来たがるはず。
――その時のために連絡とれるようにしとかなかきゃ……!
震える手が、恵ちゃんのピンクのスマホに伸びていく。
そして、それからのあたしの行動は、恐ろしく早かった。
恵ちゃんが消えていったトイレを気にしつつ、一心不乱に人差し指を滑らせて、陽介の名前を探してく。
そして……。
「あった……」
臼井陽介という名前と、見慣れない電話番号を見つけた瞬間、あたしはいろんな思いが込み上げて、思わず涙をこぼしそうになっていた。