あたしが欲しかったもの-8
「陽介は、カノジョ一筋で満足できるような男じゃないのよ。アイツはカノジョがいても、絶対あたしのとこに帰ってきてた。あたしのとこが一番居心地がいいんだって。そりゃそうよね、あたしと陽介は似た者同士だから」
自分を安心させるために出た言葉は刃となって、恵ちゃんに斬りかかっていった。
恵ちゃんはもう、あたしと向き直る気力が無いようで、ひたすら俯きっぱなしだ。
愛されてる自信が少しずつ揺らぎ始めているだろうから。
それほどにあたしは陽介のことを理解していて、恵ちゃんは陽介のことを知らなすぎだったから。
半分ほど残っている恵ちゃんのアイスティーのグラスは、汗をいっぱいかいていて、まるで彼女の心中を投影してるよう。
その内、彼女の心が崩れ落ちるように、溶けた氷がカラン、と乾いた音を立てた。
「恵ちゃんって、見るからに真面目そうですごくいい娘だからあえて言わせてもらうけど」
まるでそれを合図に、彼女の瞳を射抜くようにまっすぐ見つめるあたし。
潤む瞳は、今にも涙が溢れそうなほどユラユラ揺れていた。
あたしは、小さく息を吸い込んでから、
「陽介はやめといた方がいいよ。恵ちゃんには似合わない」
と、諭すように言った。
「な、なん……で……」
ついに飽和した涙が、その大きな瞳からポロリと溢れる。
なんでって、そんなの理由は一つしかない。
そんな涙を見ても罪悪感どころか、嫌悪感しか生まれてこない。
――あなたには、あなたにだけは、陽介を渡したくないから。
あたしはそんな彼女をジッと見つめながら、目の前にあるグラスをゆっくりストローでグルグルかき混ぜた。
半分ほど残っていたアイスティーは、溶けた氷と二層 になっていたけれど、グラスの中身がゆっくり均一の 淡い茶色になっていく。
ポツポツ溢れていく涙をそのままに、恵ちゃんはただただその様を呆然と眺めるだけ。
「あ、誤解しないでね? あたしは恵ちゃんが憎くてそう言ったんじゃないの」
「…………」
「確かに陽介は今は恵ちゃんのこと大切にしてるかもしれない。でも、アイツは根が遊び人だから、この先絶対浮気するよ? そうなった時に悲しむのは、恵ちゃんなのよ。
あたし、恵ちゃんには悲しい思いはして欲しくないの」
あたしの偽善者ぶった言葉に、恵ちゃんの眉根がピクッと歪む。
でも、これは事実。
陽介が、いつか絶対あたしの所に帰ってくる以上、恵ちゃんが泣かされるのは目に見えている。